強硬手段を取ったって手遅れは手遅れ
ひとまず店番の方は魔女様が預かってくれるとのことで、僕はそのままトンボ帰りでバイクをかっ飛ばし、ねぐらに戻った。
『りょーへー、早いなー?』
『何かあったのかー?』
当然のようにくつろぎスタイルで迎えたチビたちに言いたいことはあるけれど、とりあえず今日は本題を優先することにした。
「魔女様が戻ってきたから、ジャックのこと相談してくるよ」
『おー、やっとか!』
『そーだんできてよかったな!』
「ほんとにね。というわけでジャックを連れて行こうと……あれ、ジャックは?」
と、僕が首を巡らすも、ジャックの姿が見当たらない。おや、どこに行ったのかな。
『そーいや、どこだー?』
『いまの今まで、そこのクッションで寝てたよなー?』
はて、と首を傾げあったのち、僕らは示し合わせたように捜索開始した。隅の隅まで探し尽くして、ようやっとクローゼットの奥の奥に発見した。暗いところの黒猫探し、難易度たっか!
「おーいジャック、行くぞー」
声をかけるも、さらに奥に入り込んで逃げる。ふ、普段は僕に擦り寄ってくるくせに……!
『注射嫌がって逃げてた、ちっちゃい頃のりょーへーみたいだなー』
『あ、確かにそうだなー』
「しれっと人の黒歴史を掘り起こさないでもらえる?」
呑気に昔話に好じるチビたちにツッコミつつ、すでに捜索だけで1時間近くを消費していた僕は堪忍の限界を迎えていた。気が短いと言う勿れ、魔女様を待たせすぎては僕の身が危ないのである。
という訳で、強硬手段。
『掃除機(小)!』
詠唱を唱えて風を起こし、ジャックを強制的に吸い寄せる。しばらく爪を立てて抵抗していたようだけど、諦めたように吸い込まれてきたジャックを手早くケージに突っ込んだ。
「あとは──『かくれんぼだよ』これでよし」
『りょ、りょーへーが力技使ってるぞ……』
ケージにジャックを大人しくさせつつ隠蔽する魔術をかけた僕を見て、チビたちが若干慄いたようにつぶやく。しれっとスルーしつつ、僕はケージを片手に立ち上がった。
「んじゃ、行ってきます」
***
バイクに乗ろうとして、はたと気づく。ケージはバイクの収納には収まらない。かといって、風に晒すのもちょっとかわいそうだ。一応荷物用の紐があるとはいえ、ケージが落っこちるのも怖いしね。
「しゃあない、歩くか……」
結構時間がかかってしまうけど、仕方がないだろう。タクシーを呼ぶには懐が寒すぎる。眞琴さんにジャック捕獲に時間がかかったこと、今から歩いて向かうことをメールしてから、僕は歩き出した。
木枯らしが冷たく吹く中、のんびりと歩く。歩くうちに体があったまって寒さもあんまり気にならなくなってきたなあ、と呑気に思っていた僕は、折り返し地点くらいではたと気づく。
(……人気が、ない?)
現在時刻は5時過ぎ。仕事終わりや学校帰りの人がよく行き交う時間帯だ。なんとなく人目が気になって大通りは避けたけど、それでもここまで人が通らないなんてこと、あるだろうか。ど深夜じゃあるまいし、文字通りひとっこ一人いない。普段は喧しいほどのカラスの鳴き声さえ、聞こえない。
「……あはは。いや、まさかそんな、さあ?」
そんなまさか、ジャックを魔女様の元へ連れ出すべく初めて外に出して20分やそこらで、このうっすい妖気に気づいて、人払いの結界を張り巡らせるなんて早業をしたおっかない人がいるだなんて、いやいや流石にそれは、ねえ? ははは、人って心にやましいものを抱えていると、些細なことでも不安になるって本当なんだなあ。
……。
…………。
うん、そろそろ現実と向き合おう。
この気配のなさ、魔王襲撃の時と全く同じだ。
(ノワールだったら、土下座で事情話したら許してくれないかなぁ……)
心の予防線を張りつつ、僕は無意識に早くなっていた足を止めた。しんと静まり返った道路のど真ん中で、ゆっくりと振り返る。
何もいない。
「いやいないんかい」
思わずセルフツッコミを入れた僕に、冷笑混じりの声が投げかけられた。
「敵の警戒が疎かどころか、魔力も辿れないようじゃ三流だな」
背後、から。
(……いやいやいや)
ダラダラと冷や汗をかきつつ、僕は固唾を飲み込む。
進行方向には誰もいなかった。それは確かだ。これでも中央の結界に隠れていた梗平くんに気づく程度には魔力探知できるし、あの頃からさらに鍛えられまくっている。にも関わらず、声をかけられるまで……いや、かけられた今もなお、魔力の気配が辿れない。
しかも、声がめちゃくちゃ近い。ここまできても気づかなかったのは、ノワールと遭遇した時だけだ。そしておっかないことに、声がノワールじゃない。
(土下座が通じないってこと……?)
これマジで詰んだんじゃなかろうか。そう思った時、僕はふと思い出す。
──この街を守護する聖獣が、とある魔術師の傘下についたらしい。
──その魔術師が、百鬼夜行の間中、街全体の地脈に干渉し、都度流れを整えていたかもしれない。
──その魔術師が、鬼を狩ることを専門とする、鬼狩りでもあるらしい。
ノワールほど優秀な魔術師で、鬼狩りでもある人物が、この街にいる。そんな、梗平君の情報を。
「……」
すーはー、と深呼吸を一つ。腹を括り、僕はゆっくりと振り返る。
なんかびっくりするほどの美形がそこにいた。
「うわイケメンすぎてむかつく」
「ただの状況を弁える知性もない阿呆か」
そして、打てば響くような罵倒が、顔よりムカついた。




