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知識屋  作者: 吾桜紫苑
第6巻
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魔女様、ご帰還

 翌日。

 僕のスマホに、魔女様からのメールが来た。


『今日はお店出るから、久々によろしくね』


「おお……ほんとーに久々だなあ」

 思わずこぼれた独り言は、幸い講義後の喧騒に紛れた。一言返事を送ってから、僕も移動すべく立ち上がったところで、肩に腕が回された。


「よ、嘉瀬。またノート貸してくれんか」

「……また?」


 流石に呆れて見上げると、福茂がニヤッと笑った。相変わらず悪びれる様子のない悪友に、大袈裟にため息をついてみせる。


「やれやれ、また単位落としても知らないよ」

「落さんために、今ノート借りてるんやないかい。俺だって少しは学習してんねんて」

「ふーん? ならもう研究室配属の研究室選びもバッチリってことだよね。勧誘会もうすぐだけど」

「嘉瀬、おれらは友達やもんな!」

「僕は下調べちゃんとしているからな……?」


 こいつ、本当に大学を卒業できるんだろうか。研究室がバラバラになったら、僕に頼るのも厳しくなるの、わかってるよね……?

 キリギリスの生き様を思い切り再現している悪友の将来をそこはかとなく危ぶみながら、僕はバッグからノートを取り出して手渡す。


「学食一週間奢りな」

「げ、そこは1日で」

「流石にこっちの手間舐めすぎでしょ。5日」

「3日、小皿付きでどうや」

「……まあいいか」


 取引成立。というか、こいつの値切りスキルはどこで身につけたものなんだ。

 ちょっぴり呆れつつ、僕は早速学食を奢ってもらうべく教室を出る。


「そーいや、最近は物騒なニュース増えてんなあ」

「あー……そうだね」

「二ヶ月前くらいの火種の見つからない火事もまだ犯人見つかってないねんな。どこぞの阿呆が悪さしてんのか知らんけど、めーわくな」


 副茂がその辺の時事ネタに詳しいのはちょっと意外だ。なんて思いつつ、僕は曖昧に頷いた。実はその二ヶ月の間に2回も街ごと吹っ飛びかけたなんて夢にも思うまい。知らないのは幸せって奴だね。

 なんて思いつつ、僕は一番高い学食メニューの組み合わせを頭の中でシミュレートするのだった。



***




 講義を受け終えて、知識屋に向かう。バイクをかっ飛ばして書店に着いた時には、眞琴さんは既にお店にいた。


「やあ、涼平。長い間任せちゃって悪かったね」

「いえいえ、お忙しいらしいとは梗平くんに聞いてたからね」


 言いながら魔女様の顔色を伺うも、思ったよりは悪くない。若干くたびれている感じはあるけど、前回の魔王襲撃後のようにやばい顔色になってたり、目が逝ってたりはしていない。


「まあ、そうだね。今回はちょっと人手が多かったから、事後処理がね。……あと、医務班が絶対に徹夜させてくれなかったから、その分時間がかかっちゃった」

「いや、それは医務班が正しいんじゃない?」

 思わずビシッとツッコミを入れると、眞琴さんは小さく吹き出す。

「はは、その通りだね。私は全部さっさと片付けたかったから、つい気が急いていたかな」

「まあ、めんどくさい仕事はさっさと終わらせたい気持ちもわかるけどね。体が第一ですよ」

「そうだね」


 頷きながら笑う魔女様は、どうやら機嫌がいい様子。ま、こんな顔できるくらいにはおうちのことが落ち着いたってんなら何よりだ。

 さて、そんな肩の荷が降りた魔女様に、早速のご相談で申し訳ないけども。流石にそろそろジャックの件にケリをつけたほうがいい。


「それで魔女様や。お店始まる前に、ちょっとご相談があるのですが」

「おや? 梗の字からは何も聞いてないけど」

「……うん、まあ、ちょっと嫌な予感がしてさ」


 そういった瞬間に顔色が変わる辺り、マセガキの評価が分かるというものである。


「今度は何事?」

「えーっと……なんというか、チビ達のやらかしから始まりまして」


 そこから僕は、梗平君に手伝わされていたことは隠しつつ、百鬼夜行後にチビ達がジャックを担ぎ込んできたこと、かなり弱っていたのでとりあえず保護したこと、よくよく見ると妖がちょびっとだけ混ざっていたので、契約して監視体制を作りつつ猫扱いで飼っていることを話した。……自分に都合が良い話だって? 社会人として当然のスキルですが何か? 

 なお、魔女様にどこまでごまかしが通用するのかは……神様に祈っておくしかない。


「なるほどね……」

 当の魔女様はといえば、ごまかしに気づいてるかのか否か、微妙なラインの渋い顔で頷いた。


「うん。早々に報告してもらってよかったよ。そして梗の字に相談しなかったのも正解かな。どう動くか分かったもんじゃない」

「ですよねー……」


 僕の懸念は考えすぎじゃないと真っ先に言われて、ひとまずホッとする。梗平君経由でも急いで報告したほうがいいのかって、まあまあ迷ったからね。


「そして、涼平の懸念は……正直、なんとも言えない」

「やっぱりかあ……」

「ただ、その場の判断としては悪くはないと思う。まあ放り出しても良かったんだろうけど、それができる涼平じゃないだろう?」

「……うん、まあ」


 なんだろう、素直に褒められてる気がしない。ここ最近マセガキにチクチクいじめられていたせいで、副音声を疑いそうだ。

 僕の心情は筒抜けだったようで、眞琴さんは少しクスッと笑う。


「そういうところも涼平なんだから、別にいいと思うけどね。とはいえ、ジャックだったかな? 鬼の使役と扱うべきか、妖の契約と扱うべきかは……うん、一度見てみないと、なんとも言えないな」

「やっぱ、そうなるよねえ」


 まあ、あのうっすい妖気で鬼なのかそうじゃないのか、僕とチビ達では判断できなかったのだから、魔女様の意見は是非とも聞きたいものだ。


 ただ、問題は。


「……えと、連れてきて大丈夫?」

「鬼だった場合、連れ歩きは正直アウトだね」

「ですよねー……」


 どうやって見てもらうかという点に尽きる。


「確実なのは、私が君の家に行って、見せてもらうことだけど?」

「いやー……それはほら、なんとゆーか、不味くない?」

「おや、そうかな?」


 面白そうに返してくるあたり、わかってて言ってるなータチ悪いなー。そりゃあ僕如きが魔女様をどうこうできるわけがないんだけどさー。

 ……。


「……こっそりケージに入れて連れてきまーす」

「うん。道中、無事を祈ってるよ」


 僕の日和り全開の発言をくすくす笑いながら、魔女様は頷いたのだった。


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