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知識屋  作者: 吾桜紫苑
第6巻
80/80

猫飼い初心者、絆される

 猫(?)飼い生活開始から、はや三日。

 幸いなことに、この猫(?)ことジャックは飼い主初心者にとって非常に助かる子だった。


 まず、とっても静か。小さくにゃーということはあるけど、大声で鳴きわめくことがない。大家さんにバレたら追い出されるので、初日は防音の魔術を使ってたんだけど、基本は鳴かないし激しく走り回ることもない。恐る恐る防音魔術を解いても大丈夫そうだった。ずっと防音魔術を使い続けるのは魔力的にも大変なので、かなりありがたい。


 次に、びっくりするくらい賢い。講義に行く日、チビ達によくよく言い含めて置いて行ったんだけど、暴れることもなくのんびりと寝て過ごし、用意して置いたキャットフードを食べ、適宜水を飲み、と実にまったりと過ごしていたらしい。帰ってきた僕には、玄関でお出迎えまでしてくれた。


 そして最後に、大変懐っこいのだ。繰り返しになるけどお出迎えしてくれるし、移動してるとちょっと足元をちょこちょこと着いてくるし、座ってる間は体をくっつけて丸まっている。なんなら、僕の手に頭を擦り付けて、ゴロゴロと喉を鳴らす。


 ……いや、なんか、可愛くない?


 知り合いの猫飼いが、自分ちの猫を可愛い可愛いとやたら褒めちぎっていたのを、正直ちょっと親バカすぎない? って思っていたんだけど、なるほど、これは可愛い。

 あと、猫又になりかけだからなのか、人慣れしてる感じがする。僕に対して警戒心0というか、むしろめちゃくちゃ甘えてくる。こっちの方が、どの程度まで構ってやっていいのか困るくらいだ。

 猫ってこんな感じなんだろうか。何もかも初心者すぎてよく分からないけど、僕としては飼いやすいし、チビ達とはまた違った可愛さがあるし、良いことばかりである。


『なんか、俺らと扱いが違う気がするぞー』

『そーだそーだ!』

「はいはい」


 こいつらは僕が子供の頃からずっと側にいてくれた友達なので、別枠の情なんだけどね。新入りに取られる! と騒ぐチビたちを適当に宥める必要はあるものの、猫(?)飼い生活は順調に過ぎつつあるのだった。



***



「さて、行くかー」


 独り言を落とすと、ジャックが擦り寄ってくる。擦り付けてくる頭をしばし撫でてから、僕は鞄を手に取った。

 今日は2限から4限まで講義、その後知識屋でお仕事だ。一限がないとマジで助かる。もちろんそれを狙って講義を選択した。


「じゃー行ってきまーす。チビたち、留守番よろしくね」

『おー』

『まかせろー』


 テーブルに広げたおやつをつまみながら応じてくるチビたちを見ながら、僕は少しだけ思う。

 ジャックの監視という名目で、あいつらこのまま居着いたらどうしよう……と。


***


「あれ〜? 嘉瀬くん、猫さん飼い始めたの〜?」

「え」


 小海さんが速攻で言い当ててきた。昼ごはん食べに来た食堂で鉢合わせ、空きテーブルに座るなり言われたので、ほぼノータイムで見抜かれたことになる。何故だろう。


「え……動物臭かったりする……?」


 ジャックは猫に慣れていない僕でもあんまり匂わないというか、気にならないレベルだったんだけどな。匂いは女の子を不快にさせる不動のトップスリーに燦然と輝くので、結構匂いには気を使う方なんだけど。

 慌てて袖を嗅ぐ僕に、小海さんは手を振って否定した。


「違う違う〜。匂いじゃないよ〜」

「え、じゃあなぜ……」


 別にジャックをスマホの画面にドーンと載せているわけでもなし、何故バレた。そう思い聞くと、小海さんはくすくすと笑い出した。


「え〜嘉瀬君、気づいてないんだ〜意外〜」

「だから何が……」


「猫の毛でしょ」


 返事は後ろから返って来た。振り返ると、僕の肩口で何かをつまみ取った久慈さんが、呆れ顔で見下ろしてくる。


「あちこちついてるわよ。今日の嘉瀬君、無地のTシャツだから目立ってるのよ」


 そう言って突きつけてきたのは、細く黒い毛。びっくりして見下すと、確かに同じものがあちらこちらに。


「うわ、気づかなかった……え? なぜ?」


 身なりには気をつける方だし、家出る前にさっと鏡を見てチェックしたはずなんだけど。そういうと、笑いから抜け出したらしい小海さんが指をぴっと一本立てた。


「猫飼いの常識だよ〜。取っても取ってもついてるの〜。コロコロ持ち歩いたほうがいいよ〜」

「そうする……って、小海さん、猫飼ってたの?」


 猫が似合いそうな感じはするなあと思って聞いてみるも、小海さんは首を横に振った。


「私じゃなくて、月菜ちゃんがね〜」

「え、そーなん?」


 視線を向けると、小海さんの隣の席にお盆を置いた久慈さんが頷く。


「アメショとミケ。嘉瀬君は黒猫? 可愛いわよね」

 アメショとミケとはなんぞや、と聞ける空気でもなく、僕は曖昧に返した。


「うん、まあ……あーいや、正確には飼ってるじゃなく一時的に保護してるって感じだけど」

「ふうん?」


 久慈さんが珍しく楽しそうに笑った。


「あのね、嘉瀬君」

「う、うん?」


 何か変なこと言ったかなと首を傾げると、久慈さんは楽しそうな顔のまま仰った。


「ひとまず保護した、って保護した人がそのままお迎えする確率、かなり高いのよ」

「……」

「わからないことがあったら、いつでも相談してね」

「は……はーい……」


 いやちょっと、あの猫? で教えてもらえることってあんまりないよーな。

 なんて言うこともできず、僕は曖昧に笑って頷くしかなかった。


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