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知識屋  作者: 吾桜紫苑
第6巻
79/80

とりあえずの契約と名付け

 連れ歩く妖の気配を誤魔化して、一般人に気づかれにくくする方法、初心者編。


 いち、魔法陣を描いた魔道具を装備します。

 に、そこに魔力を注ぎます。


 以上。


 ……本当に?? と何度も魔術書を読み返したけど、読み間違いでもないっぽい。

 簡単すぎやしないかと思ったけれど、これは妖を使い魔として従え連れ回すための魔術らしい。つまり、本には碌に書かれていない「魔道具を装備させられるようになるまでボコボコにする」と、「妖を無理やり従わせるだけの魔力を注ぎ込む」ことが肝だということだ。


 まあつまり。


「……勝手に使い魔にしちゃうみたいで気がひけるけど、まあ仕方ないからごめんね……」


 むしろ罪悪感を覚えるくらい、この猫又もどきにはハードルになっていないのである。

 思わず謝罪の言葉を口にしつつ、ネットで購入した猫の首輪に魔法陣を専用のインクで描いて装着、魔力を注ぎ込む。使った魔力量はといえば、百鬼夜行対策の結界維持に使った10分の1ってとこかな。ま、要はたかが知れた量ということだ。


 猫の方はといえば、首輪は付けやすいように少し頭を上げ下げし、魔力を注ぐときに至っては喉をゴロゴロと鳴らしていた。……おかしい、これは力づくの屈服になる、はず、では。


「うーん……ほんとーに、これでいいの?」

『いいんじゃないのかー?』

『俺たちには妖力感じ取れなくなったぞ!』

『見えるのに気配がないぞ! 変なのー!』

「僕にも感じ取れないし……とりあえずオッケーかな」


 チビたちのお墨付きなので、とりあえずよしとする。一つ頷いて、僕は魔術書をパタンと閉じた。


「さて、次の問題は……ご飯食べる?」


 とりあえず猫の首輪と一緒にネット通販で買ったキャットフードを出してみる。年齢とかで食べる種類が変わるとかなんとか、ややこしいことがいっぱい書いてあったけど、まあ半分妖怪だしどうにかなるでしょと大人用猫フードを買ってみた。


「食べるかなあ」


 とりあえず紙皿に出して差し出す。猫はふんふんと匂いを嗅いで、一口、二口、そのまま食べ出した。


「お、行けそう」


 チビたちみたいにお菓子も食べるのかは、そのうち試してみるとしよう。お菓子で済むなら高級キャットフードより安く済む。ただ、お菓子買い込みすぎて隠れデブ疑惑かけられる悩みもそろそろ無視し得ない。

 結構な勢いでキャットフードを平らげた猫は、その場でごろんと寝転がり、毛繕いを始めた。なんか、とってもくつろいでいやしないか。


「まあ良いか」


 嫌がって暴れたり、どれも食べてくれなかったりで困ったわけじゃあないのだから、素直に喜んでおこう。なーんか釈然としないけど。

 さて、使い魔契約(仮)もできて、ご飯も無事食べて、猫がこっそり居座る準備は万端だ。となると、もう一つしておくべきことがある。


「名前……どうしようかな……」


 いや、とりあえず預かっているという観点からすると、情が移りそうだし名付けなんかしないほうが良くない? とも思うんだけど。こいつが妖で、使い魔(仮)にしたという背景が加わると、名付けるべきなんだよね。


 名前というのは、一番短い呪とも呼ばれている。


 名前って、呼び合うことで相手への縁を深めてくれたり、名付けることで愛着を深めたりするでしょ。その精神的な繋がりは魔術でもすごく大事にされているのだ。魔術の系統によっては、名前は、魂をこの世界に根付かせるための柱のようなものだという説まであって、大きい魔術を使うときに自分の名を詠唱に盛り込んだりしちゃうのだ。めちゃくちゃ恥ずかしくない?

 あと怖いところでは、呪術界隈で誰かを呪う時には呪う相手の名前を血文字で書いたりする。呪う対象をしっかり定めるためらしい、マジで怖い。


 さて、魔術知識のおさらいがてらつらつらと知識を呼び起こしてみたけど。つまるところ、使い魔みたいに相手を従える上では、名付けするとしないとで全然効力が違うのだ。今はこの猫も雑鬼に抑え込まれる程度の力だけど、今後もし力が増した場合を考えたら、僕や周りが襲われないように命令する効力を少しでも上げておくに越したことはない。


 ……いや、僕の周り、おっかない魔術師ばっかりだから、猫又に襲われたくらいじゃ相手にもされない気はするけど。むしろ、危険なのは僕一人かもしれないまであるけど。

 いずれにせよ、名付けは避けて通れないのである。あるんだけども。


「……どうしよう」


 はっきり言って名付けのセンスに自信がない。これっぽっちもない。ペットを飼った経験すらないのに、どうやって名前をつけろというのか。


「黒猫……クロ、クロスケ、ブラック……カラス?」

『りょ、りょーへー……?』

「うんごめん、分かってる……」


 チビたちにガチ目の声でストップをかけられた。分かってるとも、今のはない。

 腕組みをして、うーんと唸る。いや、マジでこういうのってどう名付ければいいんだろう……。

 チビたちに意見を募るのは負けな気がして──使い魔の名付けを同じ妖カテゴリのチビたちに聞くのはあんまりだろう──、とりあえず手元のスマホでなんとなく検索してみる。


「黒を各国語で言うのはやめとくとして……ニンジャってつけることもあるんだ……ウニってなんで?」


 ノワールを思い出すのはいかがなものかだし、ニンジャは言いたいことはわかるけどイマイチ。食べ物の名前をつけるのは、僕的にはもう一つピンとこない。

 うーんとしばし唸り、ふと目に入ったのが「アメリカでは黒猫といえば魔女、ハロウィンを連想しがち」との言葉が目に入る。


「あー、確かに魔女といえば黒猫っぽい」

『確かにそのイメージあるなー』

『だったら魔女の弟子だからりょーへーにもぴったりだなー』

「う、うーん……どうだろ……」


 その辺は濁しつつ、そういや眞琴さんとは前にハロウィンで遊んだな、と思い出す。



「ちょうど君が来たのも10月だし、ハロウィンにちなんでジャック、なんてどう?」



 そう言って振り向くと、黒猫はにゃー、と静かに鳴いた。チビたちもワイワイと騒ぎ出す。


『いいんじゃないかー?』

『フツーの名前っぽいし!』

『こいつもそれで良さそうだし!』

「ん。じゃあ君は今日からジャックね。よろしく」


 そう言って差し出してみた手を、ジャックはペロリと舐めた。舌がすごくざらざらしてて、ちょっとびっくりしてしまった。


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