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知識屋  作者: 吾桜紫苑
第6巻
77/80

百鬼夜行、終息

 梗平君の予想通り、百鬼夜行は無事収束したそうだ。

 正直今回、何が何やらわからないことが起こりすぎて、狐に鼻を摘まれたと言いたくなるような気分だ。


「……納得がいかない」


 それは梗平君も同じ、というか、終息したという魔女様からの連絡に対して怒涛の質問攻めを行い、全てを『今答えてる暇はないから後にしな』の一言で切って捨てられたこともあり、さらに憮然とした顔をしている。


「そりゃー忙しいんでしょうよ」


 怪我人の治療とか、壊れた家屋の修繕とか、そういう後始末の方が忙しいのがトップというものだ。当たり前でしょうと嗜めるも、梗平君は不満げだ。


「はいはい、今回は魔導書がぐちゃぐちゃにならずに済んだし良かったということで。またしばらくは店番よろしくってなるんだろうから、今日は解散でいいよね」


 そう言って僕はかばんを取り上げた。なけなしのプライドを振り絞って普通の顔をしてるけど、ぶっちゃけ疲れ切ってヘロヘロなのだ。今ここにベッドがあれば躊躇いなくダイブして、そのまま熟睡に入ること間違いなしである。

 悲しきかな店にベッドはないし、流石に床で寝るのはどうかと思う、そのなけなしの社会的常識と、このマセガキにほんのちょっぴりだけ張りたい見栄だけで気力を振り絞っている。


「……そうだな。今回は特に世話になった」

「へ???」


 なんとか帰る準備をしていた僕は、聞こえてきた言葉に思わず振り返った。目をまん丸くする僕に、梗平君は眉を寄せる。


「なんだ、その反応は」

「いや、……うん。どういたしまして」


 お礼を言われるとは思ってなかったと正直に言ってやろうかと思ったが、やめた。中坊というのは、そういうことを言われるのをとても嫌がるお年頃なのである。


「じゃ、お疲れー」


 だからそれだけ言って、僕はようやっと帰路に着いたのだった。



***




 やけに重たく感じるバイクを押しながらトコトコと進み、修復に取り組んでるだろう術者の方々をさりげなく迂回して、無事家のドアまで辿り着いた僕は、深々とため息をついた。


「やっとついた……」


 最短距離で帰りたいのをグッと堪えた甲斐があり、誰にも引き止められずに帰ってこられた。なんだか赤い液体が地面に飛び散ってたり、ウッと息を呑むような禍々しい気配の名残がその辺を漂っていたりしたものの、何も見なかったことにして戻ってきた。

 これから朝までにあんな諸々の後始末をする皆々様に心の中で合掌しつつ、僕は鍵を回し、ドアを開けた。


「……ん?」


 首を傾げる。何度か瞬きをしたが、どうやら疲れ目の見間違いじゃないみたいだ。


 黒い毛並みが艶々と光を弾き、ぴょんと飛び出た三角形の耳はぐったりしている。手袋を履いたように先だけが白い四つ足を揃えて横倒れしている。胴体のお尻部分から伸びるスラリと長い尻尾が、これまたぐったりと床に落ちていた。


 まあ要するに、黒猫である。


「……どちら様?」


 途方に暮れて思わず呟いた僕に、予想外にも返事が返ってきた。


『そいつ、家の前で倒れてたから、俺らがきゅーしゅつしたんだぞ』


 視線を向けると、いつものチビたちがローテーブルの上に集まって、猫を見守るように顔を向けていた。


「……えっと」

『りょーへー、おかえりー。どこ行ってたんだよ、俺ら大変だったんだぞー』

『そーだそーだ。おっかない奴らが大暴れしてたから、街の外まで逃げておっかなびっくり見守ってたら、なんかすげー怖いねーちゃんに追い払われたんだ』

『仕方ないから適当にうろうろしてたら、急におっかない奴らがぶっ倒れて、その後は大人しくゾロゾロ街から出ていったんだぞ』

『で、もう大丈夫そうだなーってりょーへーに会いにきたら、そいつが倒れてたんだよな』

『それで、りょーへーはどこにいたんだー? 元気そうだし、ちゃんと逃げてたんだろー?』

「……うん。説明、どーもありがとう」


 もはやどこからどこまでつっこめばいいか分からない。ついでに、元気そうとチビたちは宣うが、僕は気力を振り絞って魔術を維持するという、人生稀に見る本気を捻り出してきたばかり。クッタクタに疲れ果て、限界が目の前な重い体を引きずり、クソ重いバイクを押して戻ってきたばかりだ。


 だから、なんというか、チビたちに加えて黒猫が増えたからと言って、まあどーでもいいや、という気分だったのである。


『りょーへー?』

「……まず寝る」


 代返依頼は帰りしな、頼れる学友たちにしてある。何はさておき、一旦寝ないと目の前の状況を理解すらできそうになかった。


『えー!?』

『いや、こいつどう──』


 何やらチビたちが騒いでいたけど、子供の頃から聞き慣れすぎてもはやBGMとなっている僕には、目覚まし効果はなく。

 そのままバッタリとベッドに倒れ込み、気絶のように寝落ちたのだった。

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