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知識屋  作者: 吾桜紫苑
第6巻
73/80

百鬼夜行と書いて人外の行軍と読む

 さて、時刻はそろそろ丑の刻。

 やっぱこういうのって怪談と同じ時間なんだなーって呑気にしてた僕は。


 ぐわん、と。


 世界が回転したような感覚に、危うくすっ転びかけた。

「えっ、何」

「……っ!!」

 戸惑う僕の横で梗平君が顔色を変えた。両掌を魔法陣に叩きつけ、大量の魔力を流し込み始める。

「な、何事?」

「魔法陣に集中しろ」


 説明する余裕すらなさそうだ。訳が分からないながらも、僕はとりあえず魔法陣に魔力を注ぎ続けることとする。

 梗平君は険しい顔でしばらく魔法陣を睨みつけていたけれど、やがて大きく息を吐き出し、肩の力を抜いた。


「……開幕からやってくれる。先が危ぶまれるな」

「えーっと……結局、何があったの?」

 恐る恐る尋ねると、梗平君はさらりと、とんでもないことを宣った。

「方角が反転された」

「……は?」


 どゆこと?


「南北を軸に方角を反転された。おそらく鬼門と神門の位置を反転させることで、こちらの裏をかこうとしたのだろう」

「なるほど、分からない」


 だって方角は方角である。地球の磁力で決まるものであって、それを利用して構築するのが魔術だ。人外の力といえど、どうこうできるもんじゃない。はずだ。

 と、僕のそれなりな知識を出して確認すると、梗平君は頷いた。


「そのせいで、魔法陣の座標が崩されて維持が危うくなった」

「えっ。いやそうだよね」

 繰り返しになるけど、魔法陣の座標は方角を基にして設定する。そりゃ方角が反転すれば魔法陣は意味をなさなくなり、下手をすれば暴走する。

 今更ながらに状況を理解して青ざめた僕に、梗平君は首を横に振った。


「修正はほぼ終わった。涼平さんはそのまま魔力を注いでくれれば問題ない」

「……そりゃーよかった」


 この中学生、本当に優秀すぎて怖い。


「今回の敵には天逆毎──天狗と天邪鬼の先祖がいる。神通力を操れる連中がいれば、方角の変換は可能だ」

「もう鬼の領域じゃないでしょそれ!?」

 百鬼夜行と言いながら神様レベルの超常現象を起こすのはどうかと思う。そう主張した僕に、梗平君は冷静にこちらを見て、一言。


「世界を破壊する魔王が襲撃してくる街だぞ」

「……そーだね」


 この街、なんでこんな物騒なのかなー……いやまじで、僕よく生きてるな。


「涼平さんの助力もあったから、予想より迅速に修正できたのは幸いだったな」


 遠い所を見る僕を横目に、梗平君は傍のパソコンに手を伸ばした。今回は僕でも状況が把握しやすいようにと、ディスプレイに接続されている。なお、これだけで梗平君が僕を巻き込むために準備万端に整えていたのがバッチリ伝わってくる。確信犯とはこのことだ。


 さて、そのディスプレイに目をやると、早速鬼の姿が大画面に映った。


「うわでっか」

「……そればかりだな」

「いやあ……」


 だってほら、190センチを超えた大男って、まずその身長に目がいくというか……。


 なお、大男もといその鬼は威風堂々とした袴姿で、身長に見合う大太刀を引っさげていた。それを棒切れのようにぶん回し、術者らしき人たちを吹っ飛ばしている。……だ、大丈夫かな。

「……無法がすぎるな」

「おっかないねえ」

「そういう意味じゃない」


 物騒だよねえという気持ちで相槌を打ったら、すぐさま否定を返された。何でだ、と振り返ると、梗平君はやや呆れたように肩をすくめる。


「鬼門が神門に反転されたと言っただろう」

「うん」

「鬼門は鬼の通る道、神門は神の通る道。鬼にとって神門は通りづらい道だ」

「そーなんだ」

「……」

「そんな顔されても……それ魔術には出てこない知識でしょ」


 すごい残念な目で見られたけど、魔術師見習いに術者としての常識を説く梗平君の方が、どうかしているだろう。


「……まあいい。本題に戻ると、その鬼は神門に満ちた陽の気を真っ向から切り払って突撃している」

「……ええ……」


 そんな力技があってたまるかと言いたいのに、方角を反転させた奴もいたんだからありうるのか、と納得してしまう悲しさ。なんだろうね、このわけ分からない状況。


「ちなみに街の外側では、……援軍が、ダイダラボッチを、空に打ち上げ続けているな……」

「なんて??」


 言葉通りの画像を見せられた。作り物と言ってもらった方が信じられるよ、これ。

 梗平君の顔を見ると、とても微妙な顔をしていた。これはそう、「そんなのあるんだ……」って顔だ。僕も同じ顔をしているからよく分かる。


「……魔術は観測できない。多分だが、人外の膂力に物を言わせている……と思う」

「ええ……」


 もう一度画面に目を向ける。アニメ映画にでも出てきそうなごっつい巨人が、サッカーのリフティングですかって勢いで打ち上げられている。比喩ではなく、自由落下しては凄い勢いで垂直に跳ね上がり、また落ちてきては跳ね上げられているのだ。しかも打ち上げてる人の姿は見えないってことは、巨人と比べて豆粒みたいに小さい、人間サイズってことでいいんだろうか。


「おそらくは。……人外の膂力は、体の大きさに比例しないとは言うが、それにしても規格外だな」

「こっわ……」


 なんか、こう、前回の戦いとはまた違う物騒さというか。慄然とする僕に、梗平君はため息をつきながらも同意を示してくれた。


「今回は百鬼夜行だ。鬼は基本力を見せつけることを目的にしているから、ある意味では魔王の襲撃より派手派手しいぞ」

「なるほど……」


 さて、こんな状況でも、僕たち人間は生き延びなければならないわけで。

 今も最前線で指揮をとっているだろう魔女様を思い浮かべて、……うん。なんか大丈夫そうな気がしてきた。


 まーとりあえず、前回黙っていたせいで今回もバレずに利用できるだろっていう魂胆見え見えのマセガキに付き合って、しっかり魔法陣の維持を頑張りますかね。


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