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知識屋  作者: 吾桜紫苑
第6巻
72/80

平和の終わりは監禁から

 何やかんやありすぎた夏休みが終わり、10月に入った。今だにうんざりするほど暑いけど、日差しや日の入りの早さからかろうじて秋の気配を感じないこともない。暑いけど。

 後期が始まり、友人達と暑いだるいと文句を言い合いながらの通学が始まった。だいぶん必要単位は集まってきたけど、まだそれなりに受講単位は残っている。まあぼちぼちとやる気出して、講義に参加しますかね。つい先日危うく死にかけた身としては、このだらけた日常すら有難いというものだ。


 だが、そうは問屋は下さなかった。


「毎年、神無月に百鬼夜行が来るのは、この街の常だ。全ての術者は一年かけて、術具製作を含め、百鬼夜行に対抗するための準備を行う」

「初耳だけど、そういや10月って、おっかないのに追いかけられることが多かったなあ……」

「だが、今年はかつてない規模になる。先月の魔王による砲撃により、地脈を介して瘴気がばら撒かれ、妖どもを引き寄せたせいだ」

「なんとかなった後までめーわくな……」

「加えて、百鬼夜行のために準備していた術具も、魔王襲撃時に大部分を消費してしまった。もちろん再作成はしたようだが、限度がある。怪我から復帰していない術者も多い。今回の百鬼夜行はあらゆる意味で厳しいものになるだろう」

「なるほどなるほど」


 大変めーわくかつやばい状況を、端的に説明してもらった僕は、うんうんと頷いた後、静かに梗平君の顔を見つめた。


「……あのさ。もしかして、今夜が百鬼夜行の日だったりする?」

「正確には、日付を超えた丑の刻だ。今回も俺は結界担当を割り振られた。貴方の力を借りたい」

「そういうことだよねー……」


 何の話かって?

 もちろん、いつもの店番が終わって帰ろうとした矢先にいきなり魔術的監禁を食らった僕に、監禁犯である梗平君が犯行理由を説明したっていうわけである。もう、ほんとこのクソガキ、僕を巻き込むことに遠慮をなくしすぎじゃないだろうか。


「嫌なのか?」

「嫌か嫌じゃないかで言えば、フツーに嫌だけど??」


 なぜ乗り気で手伝うと思った。じっとりと睨みつけると、梗平君は肩をすくめ、しれっと仰る。


「眞琴の力になれる機会なのに?」

「……。そうじゃなくって、一般人を巻き込むなとゆー問題なんだけど?」

「一般人?」

「そうですが何か?」

「魔術師見習いを一般人とは呼ばない」

「ぐぬぬ……」


 涼しい顔の梗平君と、ジト目の僕による舌戦ですが、すでに旗色が悪いです。


「いや、ほら、見習いを戦力にするのはどうかという」

「涼平さんの場合、魔術維持の技術は既に一人前の魔術師と遜色がない。先ほども言ったように、我が街の戦力不足は非常に深刻だ。現に中学生である俺が、こうして一画を担っている。さらに、今回眞琴は外部の術者に個人的な依頼を出している。有用な魔術師見習いが戦場に出ることも是とするだろうな」

「ぐぬぬぬぬ」


 訂正、もう勝てる気がしません。なんでこんなに口が回るんだ、このマセガキは……。


 はあーと大きなため息を一つ落として、僕は肩を落とした。いやまあ、監禁された時点で半ば諦めていたけどさ。

「それで、今回も魔術の維持をすればいーのね?」

「そうだ」

「はいはい、了解しましたよーっと……」


 というわけで、今回も魔法陣に魔力を注ぎながら、ひたすら無事なんとか生き延びれますよーに、と祈るお仕事が課されたのであった。


 ……どーして一介の書店員がこんなことしてんだろね。今更だけどもさ。



***



「雑鬼たちとは、最近接触しているか」


 魔力を注ぎ始めて、しばし。

 唐突な梗平君の問いかけに、僕はすぐ頷いた。


「毎晩来てるよ」

「何か変化はあるか」

「やたらとうちに泊まりたがるんだよねえ。寝る時には帰るって決まりにしてたのに、最近諦めが悪くてさ。追い払って寝た後にこっそり戻ってきたりするんだよ」

「……そうか」


 僕の返事は何かが違ったらしい。梗平君がめっさ微妙な顔してる。


「何さその顔。あいつらの呑気っぷりは、今に始まったことじゃないでしょ?」

「……。先ほども説明したが、魔王の襲撃により地脈が汚染された影響で、鬼たちが殺気立ち、今回の大規模な百鬼夜行につながっている。雑鬼が一切影響を受けないとは考えづらい」

「えー……相変わらずだったけどなあ。というか、注意喚起すらなかったんだけど」


 梗平君に完璧な不意打ちを喰らっていることからもお察しの通り、あいつら百鬼夜行の忠告すらしなかった。マジで、無理やり捻り出しても泊まりたがることくらいしか変化はない。そう言うと、梗平君の目がきらりと光った。


「つまり、貴方の側にいることで正気を保っている可能性があるということか? 一度、店に連れてきて欲しい」

「丁重にお断り申し上げます」


 こんなマッドサイエンティストの目をした梗平君の真ん前に、無力な雑鬼たちを出せるわけがない。僕なりに、彼らへの情はあるのだ。


「何故」

「胸に手を当てて考えるといいよ」

 過去に何やらかしたと思ってんだと暗に告げて、この会話は無理やり打ち切った。


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