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知識屋  作者: 吾桜紫苑
第5巻
69/80

魔王の砲撃と人間と人外の迎撃

「魔王の攻撃は、多くは単純な魔力放出だ」

 収束した魔力を睨みつけるように天井を仰ぎながら、梗平君がそう言った。

「俺たち人間のように、威力を嵩増しするために術式を用いる必要などないからだ。だからこそ、魔術の攻防で基本となる相性などというものはない。防ぎ切るだけの防御を構築するか、打ち消すだけの攻撃をぶつけるか、どちらかだ」


 その言葉と同時、街を覆うような結界が展開されるのが僕にも分かった。ドーム型に薄く広く強固に広がるそれは、僕から見ても非常に繊細で強力な結界だ。


「……眞琴さん」

 よく知るその魔力に思わず呟いた時、梗平君が静かに、鋭く告げる。

「──来る」


 天空を引き裂くような轟音とともに、眩い光が降り注いできた。


 降り注ぐ攻撃は梗平君の言う通り、単純明快。魔力の塊をビームみたいにぶっ放しているだけだ。だけなんだけど、それを魔王とかいうわけわからない存在がやると、レベルが桁違いだった。

 街をドーム状に覆う結界が降り注ぐ光と衝突した途端、文字通り体が浮き上がる。


「うっわぁ!?」

 思わず悲鳴を上げた。いや、マジで今15センチくらいは余裕で浮いたんだけど!?


 しかも揺れは全く収まらないどころか、どんどん酷くなっていく。慌てて四肢を突っ張って床にへばりつくものの、店舗の方からは本がバサバサと大惨事になっている音が聞こえてきた。


「えっあれ魔導書は大丈夫!? 暴走しない!?」

「……っ、さあな……!」

 僕より小柄な梗平君は、流石にこの状態で講義する余裕はなさそうだ。懸命に魔石を握った手を魔法陣に押し付けて堪えている。


「結界、は、拮抗している、が──いや」

 梗平君が目を細める。

「構えろ、くるぞ!」

「〜〜っ!」


 パキン! と、硬いものが割れる音と同時、視界が真っ白に染まる。


「ぐっ……!」

「ぐえっ!?」

(いやなにこのえっぐい衝撃!? 吐きそうなんだけど!?)


 思わず上げてしまった悲鳴と共に込み上げるものをなんとか飲み込む。これもしかしてあれか、魔術を破壊される時の反動とかそういうのだろうか、いやきつすぎないか。


 なんて、思っていられたのも束の間。


 ピシッ! と音がして、手に握っていた魔石が砕ける。同時に、魔法陣がパッと光を放って消え去った。


(──あ、死んだ)


 ごくごく自然にそう悟って目を瞑ろうとしたその時──視界が真っ黒に染まった。


「んっ!?」

「……これ、は……!?」


 梗平君の掠れ声が聞こえる。ってことは生きてるんじゃないかと気づいて慌てて顔を上げると、なんか全体に暗いなんてもんじゃない。真っ黒だ。


「えっなにこれ、何事」

「上を見ろ!」

 叫ぶ梗平君につられて上方を仰いだ僕は、かぱっと顎が落ちた。


「……は?」


 天から落ちてきていた白い光が、真暗闇に押し返されていた。


 いや、違う。


(待ってこれノワールの魔力か!? あの人本当にどんだけなの!?)


 さっきの梗平君の説明からして、これ人間の魔力で魔王の魔力放出に張り合ってるってことになるわけだけど、そんなことある?

 ついでに、魔力と魔力がぶつかり合ってるのに、余波が全くないのが怖い。さっきまでの衝撃は何処へやら、前髪が揺れることすらない。


「……えっと、闇属性の吸収特性で衝撃も吸い取っているとかそういう……?」


 浮かんでしまった仮説の怖さにさえ唖然茫然としている間に、真っ暗闇は形を変えた。視界を取り戻した僕らが見たのは、細く輝く黒い曲線が文字を、記号を描き──数えきれないほどの魔法陣を象っていく様だ。


「多重、発動……?」

 梗平君が声を掠れさせる。それはそうだ、2個3個と発動するのだって相当な高等技術なのに、10や20じゃ済まない魔法陣だ。僕なんかもうただただ「は?」でしかない。


(いやこれ100行ってない?)

 とドン引きしている余裕があるのが更に怖い。つまりこの魔法陣の数々は、確かに魔王の砲撃と真っ向勝負できちゃっているのだ。街中の術者が全力を注いだ結界を一瞬でかち割ったあの攻撃を、だ。


 いや、本当にあの人って人間なの? 人間じゃなくてもまあまあ意味わかんない存在ってことになりそうだけども。


「……だが、足りない」

 魔法陣に魅入られたように動かなかった梗平君が、けれどそう言った。ギョッとしてそちらを振り返ると、梗平君はなぜか足元を睨みつけていた。


「梗平君?」

「まさかこれは、ただの削りか」

「は?」


 ちょっと理解したくない言葉に思わず聞き返したところで、魔法陣がふっと消えた。


「え、ちょっ」

 慌てて顔を上げたら、目と鼻の先に輝く魔力の塊が。


(──あ、今度こそ死んだ)


 そんな思考ごと、目の前が真っ白に塗りつぶされた。


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