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知識屋  作者: 吾桜紫苑
第5巻
65/80

憶測と、憶測

 その後、しばらくの間ぼうっと立ち尽くしていた梗平君だったけれど、やっとこさ戻ってきてくれた。が、どうにも上の空である。一応、魔法陣の運用は僕から梗平君の元へと戻されたものの、その他の反応は皆無である。


 やっぱり、先ほどの一件が尾を引いているのだろう。


 これって、梗平君に春が来た! とワクワクしていいものだろうか。それとも、またマッドサイエンティストの血が騒ぎ出しているんじゃなかろうか、とドキドキすべきか。

 内心が定かでない梗平君と、究極すぎる二択に悶々としている僕。ものすごく不毛な沈黙が二人の間を流れ続けていた。


 けど、そんなある意味平和な沈黙が、この緊急事態に保ち続けるわけもなく──。


「!」

 突然顔を上げた梗平君が、見る間に険しい表情になる。

「え、どしたの……っ何!?」

 僕もちょっと出遅れたけど、その原因に気づく。


 ものすごい魔力が膨れ上がったと思ったら、あっという間に掻き消えたのだ。


「……今の魔力は、何だ」

「……さあ……」


 分からない顔をしてみたものの、僕にはバッチリ覚えがある魔力だった。この魔力を感じたら即降伏、と記憶に刻まれている、あれだ。

(このタイミングでご出勤かあ……)

 そういえば、前に眞琴さんが言っていた。ノワールはこの世界の魔術文明管理者としての顔も持つと。となるとやっぱり、魔王の侵攻を抑えるためにやってきた、ということだろうか。


「知っているようだな」

 つらつらと考えていた僕の様子に、心当たりを見出したらしい梗平君がひたりと僕を見つめた。やっば、一番あかん人物にバレてしまった。


「えー……うーん、まあ、あると言えばあるし、ないと言えばない……かな?」

「事実を明確に提示しろ」

 お得意の誤魔化しを駆使する間もなく、梗平君に強制終了させられた。仕方がないので、僕は端折りに端折って伝えることにした。


「魔力には心当たりがあるよ。魔女様の知り合いで知識屋のお得意様ってところかな。戦闘めちゃくちゃ強いらしいから、助けに来てくれたのかなあ、なんて思ったり?」

「それはないな」


 梗平君、まさかの断言。僕はしばし考え、そっと尋ねた。


「えっと……その心は?」

「眞琴は、というよりもこの街の守護者どもは、外部の協力を厭う傾向にある。緊急事態だ、一般人の避難誘導程度ならまだしも、のちに脅威となりうる実力者を戦地に送り出すことはまずない」

「へえ……?」


 そんなこと言ったって、魔王が襲ってきてるとかいう訳分からない状況では仕方ないのでは。


「それでも引けない。そういう馬鹿どもの集まりだ」

「そ、そっかあ……」


 うっかり忘れかけていたけど、梗平君はそんな「馬鹿ども」から魔術師になったというだけの理由で勘当されちゃった身である。藪蛇にも程があったと僕は首をすくめた。


「……あるいは眞琴が腹を括った、か。つくづく貧乏くじを引く」

 梗平君はそう呟いて、ノートパソコンの画面に視線を向けた。少しでも情報を得ようとしているらしく、無言で凝視を続ける。


 そんな後ろ姿を眺めながら、僕は今更ながらに思い出した。


「……あれ」

「どうした」

「あーいや……」


 はぐらかそうかと思ったけど、いや意味がないなと思い直す。


「なんかちょっと前に、眞琴さんが、この魔力の持ち主が音信不通とか言ってた気がするなあって、思い出してさ」

「この魔力量で?」

「魔力隠蔽の技術はめちゃくちゃ高いらしいよ。拠点にいるんじゃない? って話ではあるけど、連絡が取れないとかなんとか」


 あやふやな記憶をあさって答えていると、梗平君はパソコンの画面から一瞬だけ目を離して振り返る。


「魔術の研究にでも没頭していて、連絡を忘れていたのでは?」

「そんなことある?」

「実体験だ」

「……そっかあ」


 ノワールが梗平君ばりのマッドサイエンティストかどうかは定かじゃないけど、少なくとも魔術書魔導書を書き下ろせる天才であることは確かなわけで。研究に没頭すると音信不通になるってのは、案外ありうる話なのかもしれない。僕と眞琴さんじゃ思いつかなかった。


 なんとなくすっきりとした気分になったところで、ふと思い出す。そういやノワールって魔法士協会の幹部とやらで、協会とこの街は不干渉を貫いてるとか言っていたような。

(え、じゃあなんで来たの?)

 なんて思ってみたものの、思いつかない。もしかすると、知り合いのよしみってやつなのかもしれないね。


 使えるものはなんでもこき使う、が信条の魔女様を、僕はある意味めちゃくちゃ信頼している。たとえば、本当はやばかろうがしれっと協力をこぎつけておいて、後から他の人に詰められても知らぬ存ぜぬで笑顔で押し切るとか、眞琴さんなら絶対やる。そしてこれはほんとーに何となくなんだけど、あのおっかないノワールさんからは、若干そういう押しの強さに流されがちな気配があるのだ。


(……南無)


 世の中いろんな怖い人がいるよね。僕はそんなことを思いながら、そっと心の中で手を合わせた。


Q.実際に没頭してたせいで連絡し損ねたんですか?

A.どこかの鬼狩りに暗殺されかけた関係で寝込んでました。

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