親戚達とお祭り
僕の親戚ということで、他の3人もそれなりに興味が湧いたのか、あれこれと話しかけた。みんな──福茂は微妙だけど──基本的に下手な詮索をしないタイプなので、2人も最初は身構えてたけど、注文したご飯が届く頃には、割とリラックスして会話に応じていた。
「へえ、じゃあ2人とも高校は春影高校志望なのね」
「はい。公立なら学費無料ですし」
「親孝行やなあ」
福茂の言葉に軽く首を振って、慧君は怜君に視線を向ける。
「俺1人だとちょっと合格怪しいですけど、怜がいるから、教えて貰えば何とかなるかなって」
「へえー、怜君、頭いいんだあ」
「まあ、そこそこに」
にこやかに謙遜してみせる怜君に、自然視線が生温くなった。そりゃあ頭良いでしょうよ、暗記系なら全教科満点だもんね。
紅晴市では、私立中高一貫高と公立の春影高校が進学校として名高い。前者は所謂お金持ち学校なので、色々とお高い。だから、一般市民には春影高校がアコガレの高校だ。
なお、春影が駄目だと、あと2つある高校のどっちかなんだけど……めっちゃ治安悪いんだよね。不良が結構多いとか、なーんか変な奴が多いとか、噂だと色々言われてる。
「でも、そっかー。2人ともそうしたら、涼平君の後輩さんだね」
「そうですね」
「涼平さん、案外頭が良いですからね」
「ちょい、案外って何さ」
思わず怜君の一言に突っ込む。だから僕は、適度に真面目に頑張るのがモットーなんだってば。受験だって適度に頑張って、平和な公立高校ライフを確保出来るギリギリラインに滑り込みましたよ。
「放課後街に繰り出してはナンパしてた、前代未聞の春影高生やったんやろ」
「福茂なんて学校サボってナンパしてたんでしょ。僕はちゃーんと学校の課題まで終えてから遊んでたってば」
「…………真面目なんだか不真面目なんだか」
「……そんなんだから親御さんが溜息付くんですよ?」
思わぬ身内からの射撃に、僕はあははと笑って誤魔化した。いやほら、束の間のオアソビに夢中になるのも、若者の特権じゃないか。お金かかるけど。
「あれ、そういえば、嘉瀨君ここの出身か」
「ん? そうだけど?」
「でも、1人暮らしよね?」
「うん、そう。アコガレの1人暮らしよ?」
「……そういう理由?」
久慈さんに呆れた顔をされたけど、他に特に理由は無いとも。……そういうことにしておいてちょーだい。最近チビ達入り浸ってるから、戻ろうにも戻れないけどさ。
「そんで、2人はこれからどっか行くのかな?」
色々誤魔化す目的で話を2人に振ると、慧君が首を傾げた。
「ここ以外の、前評判が高い所へ行くつもりでしたけど……さっきみたいな事があったら面倒だし、帰ろうかなと」
「おや、勿体ない」
折角来たんだから、これだけで帰るなんて勿体ない。お祭りはこれからが本番でしょ。
やれやれ、と思いながら3人に目をやると、笑顔で頷いてくれた。うむ、察しの良い友人達でありがたい。
「じゃあ、次はライブかな?」
「そうね。吹奏楽の演奏は聴かないと」
「せやな」
「じゃあ、食べ終わったら移動しようねー」
「え?」
話の流れについて行けなかったらしいはとこ達に、にこっと笑って告げる。
「保護者付きじゃ物足りないだろーけど、トラブルは減るからね。僕らと行きましょ」
「え、でも」
「気にしなくて良いわよ。元々、目的なしに何となく集まった4人だし」
「そうだよー。お祭りはみんないた方が楽しいし!」
子ども好きだったらしい2人が、優しい笑顔で促す。困った顔を見合わせた2人に、僕は珈琲を飲みつつもう一押し。
「あんなめんどくさーいナンパ達のせいで帰るなんて、そんそん。僕達がいればトラブルも少ないだろうし、折角なんだし楽しんでいきなよ」
「……目立ちますよ?」
「そんな、何を今更」
ホント、今更だ。君達と合流する前から既に、学年の憧れの花2人連れ歩く僕と福茂には視線が刺さりまくり。更にそこに中学生とはいえ美形2人を揃えたもんだから、僕らのテーブル、ものっそい注目度になってる。メイドさんですらそわそわしてるんだもん、美形って大変ね。
「そんなどーでもいいことよか、楽しいこと考えましょ。ほら、2人が気になってたトコってどこよ?」
パンフレットを差し出してチェック箇所の確認を求める僕に、慧君が何とも言えない顔をした。ちらりとそんな慧君を横目で確認して、怜君が苦笑混じりに溜息を漏らした。
「変なところで強引ですね、涼平さん」
「ほら、ナンパに大事なのは度胸とタイミングだし? 機を逸したら駄目かなって」
「中学生男子をナンパする大学生、って言いふらしましょうか」
「やめなさい」
とんでもない事を言い出す怜君を軽く睨むと、「冗談ですって」と軽く躱された。いや君、微妙に本気だったでしょ。
「……それじゃあ、ライブの後はこの辺に──」
「ああ、その辺りが好きなら、こういうのも──」
ようやく自分の意見を言いだした慧君に、久慈さんや小海さんがアドバイスをしながら行き先を決めていく。それを眺める男勢が、効率よく回るルートを叩き出す。かつてのナンパ仲間同士、デートコースはお手の物ですとも。
あらかた行き先が決まったところで、僕達はカフェを出て移動した。
「……あのさ、嘉瀨君」
「うん?」
小海さんと福茂が中坊2人と会話をしているうちに、久慈さんがこっそり僕に話しかけてきた。聞かれたくないのかなって小さい声で返すと、躊躇いがちに切り出す。
「あの……慧君、もしかして──」
「ん、もしかする。悪いけど、知らない振りでよろしく」
「……そっか。うん、分かった。美羽にもそれとなく伝えておくわ」
「ありがとー」
気遣いが大変、ありがたい。折角こうして人の多いところに遊びに来られるようになったんだ、中途半端な好奇心に押し潰されないでほしい。
……かつて、新聞に載るような大きなニュースとなった事件の当事者を、僕だって一応、そっと見守ってきたんだから、ね。