僕のはとこ達
「嘉瀨君、その子達が身内さん〜?」
戻るなり、小海さんがまったりと声をかけてきた。ひらひらと手を振る姿が愛らしいね。
「そうそう、はとこ達だよ。紹介するね」
そう言って、僕は改めて連れてきた2人を振り返った。
「まず、こっちのイケメンが呉階慧君。中学2年生。で、もう1人の美少女顔が、鏡水怜君。同じく中学2年生で、慧君とはいとこになるんだっけ?」
「はい。美少女顔は余計ですが」
にこりと笑う怜君は、本日は黒のTシャツにジーンズと、シンプルイズベストな男の子ルック……なんだけどなあ。
「……美少女、顔?」
「……れい、君?」
「……うえ? 男?」
と、まあこのように、誰に見せても女の子に間違えられてしまうわけだ。
「うん。男なんだよねえ。2人とも」
「……ああ、うん。良かったわ、これでこっちの子が女の子なんて言われたら、自分の感性が一切信じられなくなる所よ」
「だよねえ」
「……言いたい放題ですね、貴方達」
機嫌の悪そうな声を出しながらも、言ってることは納得してるんだろう、慧君が溜息をついた。……うーむ、そんな動作までさまになるんだから、イケメンって良いね。
慧君は、「正統派黒髪王子」とか言われそうな、綺麗な黒目黒髪のイケメンだ。同じ日本人とは思えないくらい、ほんと真っ黒。そしてその色によく似合う、意思の強そうな目鼻立ちをした、でもキツイ印象はないという卑怯すぎる……もとい、めちゃくちゃ女の子ウケする外見である。
で、怜君は文字通りの美少女面。ふっくら色づく頬も唇も愛らしい、睫毛ばっさばさなぱっちり目。きれい系と可愛い系の合いの子みたいな、何とも言えない可愛らしさである。……男だって知ってるよ、けど他に表現のしようがないんだから仕方ないじゃないか。
とはいえ、この外見で2人とも苦労してるのも事実だ。さっきみたいなナンパは勿論、誘拐とか痴漢とか、いろいろあるんだとか。……イケメンも大変よね、僕は程々でよかったと思う。いや、負け惜しみじゃなく。
ので、彼らは基本、こーゆー人混みにはあんまし来たがらない、はずなんだけど。
「そんで、今日はどーしたの?」
「慧が紅晴大学の学祭を気にしていたから、半ば強引に連れてきました」
にこり、と微笑む怜君に、福茂がそわそわと落ち着きなく視線を彷徨わせた。うむ、その気持ちはよーく分かる。けどあんまし表に出すと、この子、機嫌損ねるぞ。
一方、慧君の方は怜君の発言内容に、慌てたように口を挟んだ。そりゃまあ今の言い方だと子供じみて感じるよね。中坊なら気にするでしょ。
「っ、怜だって気にしてただろ」
「あはは、まあね。というわけで、折角だから毎年評判の場所をと思って、来てみたんですが……早々とこんな事に」
「カフェだから尚更かもねえ」
いかにもナンパスポットだからね、人集まるしゆっくりお喋り出来るし。ただもーちょい緩く誘わないと、相手を警戒させるだけなんだけどなあ。
「お疲れ様だけどさ、あんな言い方してたら、いつか怪我するよ?」
一応、年長者として忠告を。さっきは僕が場を和ませたから良いけど、あんな大勢の前で貶されたヤンキーずが、面子丸つぶれのまんま引き下がるわけないじゃないか。君達、暴力沙汰に対処出来るような腕っ節ないでしょーに。
「あ、それは怜が……」
ちらっと慧君が怜君に視線を向ける。怜君はあくまでにこやかに仰った。
「例年文学部の出店では、盗難防止も兼ねて防犯対策はしっかりされていると聞きました。騒ぎにしてしまえば、その機能が僕達を守ってくれるだろうと、事前に慧にも言っていたんですよ」
「……さいですか」
前から薄々勘付いてたけど……怜君、腹黒だよね。にこやかにおっかない事言わないで欲しいよ、僕としては。
「そもそも、普通に断っても引き下がらない図々しさが問題でしょう? 俺達は何度もはっきりと断っていたわけですし。なあ、慧」
「……そうなんだよな。何度も行かないって言ってるのに、こっちの反論なんか耳も傾けないというか……ホント、身勝手な連中ばかりだ」
慧君がぐっと眉を寄せた。……うん、君は君でイロイロと抱えてるよね、本当に。
「まーまー、抑えて抑えて。折角のお祭りでこわーい顔してどーすんのさ」
とんとんと自分の眉間を叩いてみせつつ言うと、1つ瞬いた慧君が気まずそうな顔をした。怜君も少し視線を彷徨わせたけど、そこはきっちり突っ込んでくる。
「元々は涼平さんが振った話題ですけどね」
「物騒な方向に持っていったのは怜君でしょーに。ま、それは良いとして、だ。何食べたい?」
ほれ、とメニューを差し出して尋ねた。そろってきょとんとする顔は、やっぱり中学生相応の表情で、ちょっぴり笑う。
「久々に会った親戚のおにーさんが奢ったげる。好きなの頼みなー」
こんな所で出会ったのも何かの縁。バイト代も貯めておいた事だし、中坊2人のカフェでのご飯くらい奢ってあげますとも。チビ達のお菓子は……何とかなる、多分。
僕の気前の良い申し出に、今までやり取りに口を出さずに待っててくれたみんなが、歓声を上げた。
「お〜、嘉瀨君ふとっぱら〜」
「ほんま。嘉瀨もにーちゃんやってるんやな」
「私達も少し出しましょうか?」
「いやいや、それ却って申し訳ないって」
何やら気遣ってくれた久慈さんには、慌てて首を横に振る。居合わせただけのクラスメイトに出させる気はないぞ。
「いやあの、俺達小遣いくらい持ってきてますけど」
「気にしない気にしない。僕、これでけっこー小金持ちだし」
少し焦った顔で遠慮する慧君に、ひらひらと手を振ってみせた。困った顔をする慧君、根は良い子だよね。ちっとも可愛げのない中坊知ってるから、尚更そう思うよ。
「ほら、早く決めちゃいなー」
僕がほれほれとメニューを押しつけると、2人は顔を見合わせて、少し笑った。
「……ありがとうございます」
「ありがとうございます。大学生って小金持ちになれるほどバイトする時間があるんですね」
「怜君はもーちょい素直になろうか」
さくっと「暇人なんですね」とか痛いとこ刺すでない。僕は基本真面目に講義でてるし、バイト忙しいですよ。……暇する余裕とかないんだって、魔女様おっかないんだし。




