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知識屋  作者: 吾桜紫苑
第4巻
50/80

僕のはとこ達

「嘉瀨君、その子達が身内さん〜?」

 戻るなり、小海さんがまったりと声をかけてきた。ひらひらと手を振る姿が愛らしいね。

「そうそう、はとこ達だよ。紹介するね」

 そう言って、僕は改めて連れてきた2人を振り返った。


「まず、こっちのイケメンが呉階くれはしさとる君。中学2年生。で、もう1人の美少女顔が、鏡水かがみれい君。同じく中学2年生で、慧君とはいとこになるんだっけ?」

「はい。美少女顔は余計ですが」


 にこりと笑う怜()は、本日は黒のTシャツにジーンズと、シンプルイズベストな男の子ルック……なんだけどなあ。


「……美少女、顔?」

「……れい、君?」

「……うえ? 男?」


 と、まあこのように、誰に見せても女の子に間違えられてしまうわけだ。


「うん。男なんだよねえ。2人とも」

「……ああ、うん。良かったわ、これでこっちの子が女の子なんて言われたら、自分の感性が一切信じられなくなる所よ」

「だよねえ」

「……言いたい放題ですね、貴方達」


 機嫌の悪そうな声を出しながらも、言ってることは納得してるんだろう、慧君が溜息をついた。……うーむ、そんな動作までさまになるんだから、イケメンって良いね。


 慧君は、「正統派黒髪王子」とか言われそうな、綺麗な黒目黒髪のイケメンだ。同じ日本人とは思えないくらい、ほんと真っ黒。そしてその色によく似合う、意思の強そうな目鼻立ちをした、でもキツイ印象はないという卑怯すぎる……もとい、めちゃくちゃ女の子ウケする外見である。


 で、怜君は文字通りの美少女面。ふっくら色づく頬も唇も愛らしい、睫毛ばっさばさなぱっちり目。きれい系と可愛い系の合いの子みたいな、何とも言えない可愛らしさである。……男だって知ってるよ、けど他に表現のしようがないんだから仕方ないじゃないか。


 とはいえ、この外見で2人とも苦労してるのも事実だ。さっきみたいなナンパは勿論、誘拐とか痴漢とか、いろいろあるんだとか。……イケメンも大変よね、僕は程々でよかったと思う。いや、負け惜しみじゃなく。


 ので、彼らは基本、こーゆー人混みにはあんまし来たがらない、はずなんだけど。


「そんで、今日はどーしたの?」

「慧が紅晴大学の学祭を気にしていたから、半ば強引に連れてきました」


 にこり、と微笑む怜君に、福茂がそわそわと落ち着きなく視線を彷徨わせた。うむ、その気持ちはよーく分かる。けどあんまし表に出すと、この子、機嫌損ねるぞ。


 一方、慧君の方は怜君の発言内容に、慌てたように口を挟んだ。そりゃまあ今の言い方だと子供じみて感じるよね。中坊なら気にするでしょ。


「っ、怜だって気にしてただろ」

「あはは、まあね。というわけで、折角だから毎年評判の場所をと思って、来てみたんですが……早々とこんな事に」

「カフェだから尚更かもねえ」


 いかにもナンパスポットだからね、人集まるしゆっくりお喋り出来るし。ただもーちょい緩く誘わないと、相手を警戒させるだけなんだけどなあ。


「お疲れ様だけどさ、あんな言い方してたら、いつか怪我するよ?」

 一応、年長者として忠告を。さっきは僕が場を和ませたから良いけど、あんな大勢の前で貶されたヤンキーずが、面子丸つぶれのまんま引き下がるわけないじゃないか。君達、暴力沙汰に対処出来るような腕っ節ないでしょーに。


「あ、それは怜が……」

 ちらっと慧君が怜君に視線を向ける。怜君はあくまでにこやかに仰った。


「例年文学部の出店では、盗難防止も兼ねて防犯対策はしっかりされていると聞きました。騒ぎにしてしまえば、その機能が僕達を守ってくれるだろうと、事前に慧にも言っていたんですよ」

「……さいですか」


 前から薄々勘付いてたけど……怜君、腹黒だよね。にこやかにおっかない事言わないで欲しいよ、僕としては。


「そもそも、普通に断っても引き下がらない図々しさが問題でしょう? 俺達は何度もはっきりと断っていたわけですし。なあ、慧」

「……そうなんだよな。何度も行かないって言ってるのに、こっちの反論なんか耳も傾けないというか……ホント、身勝手な連中ばかりだ」


 慧君がぐっと眉を寄せた。……うん、君は君でイロイロと抱えてるよね、本当に。


「まーまー、抑えて抑えて。折角のお祭りでこわーい顔してどーすんのさ」

 とんとんと自分の眉間を叩いてみせつつ言うと、1つ瞬いた慧君が気まずそうな顔をした。怜君も少し視線を彷徨わせたけど、そこはきっちり突っ込んでくる。

「元々は涼平さんが振った話題ですけどね」

「物騒な方向に持っていったのは怜君でしょーに。ま、それは良いとして、だ。何食べたい?」


 ほれ、とメニューを差し出して尋ねた。そろってきょとんとする顔は、やっぱり中学生相応の表情で、ちょっぴり笑う。


「久々に会った親戚のおにーさんが奢ったげる。好きなの頼みなー」

 こんな所で出会ったのも何かの縁。バイト代も貯めておいた事だし、中坊2人のカフェでのご飯くらい奢ってあげますとも。チビ達のお菓子は……何とかなる、多分。


 僕の気前の良い申し出に、今までやり取りに口を出さずに待っててくれたみんなが、歓声を上げた。


「お〜、嘉瀨君ふとっぱら〜」

「ほんま。嘉瀨もにーちゃんやってるんやな」

「私達も少し出しましょうか?」

「いやいや、それ却って申し訳ないって」


 何やら気遣ってくれた久慈さんには、慌てて首を横に振る。居合わせただけのクラスメイトに出させる気はないぞ。


「いやあの、俺達小遣いくらい持ってきてますけど」

「気にしない気にしない。僕、これでけっこー小金持ちだし」


 少し焦った顔で遠慮する慧君に、ひらひらと手を振ってみせた。困った顔をする慧君、根は良い子だよね。ちっとも可愛げのない中坊知ってるから、尚更そう思うよ。


「ほら、早く決めちゃいなー」

 僕がほれほれとメニューを押しつけると、2人は顔を見合わせて、少し笑った。

「……ありがとうございます」

「ありがとうございます。大学生って小金持ちになれるほどバイトする時間があるんですね」

「怜君はもーちょい素直になろうか」


 さくっと「暇人なんですね」とか痛いとこ刺すでない。僕は基本真面目に講義でてるし、バイト忙しいですよ。……暇する余裕とかないんだって、魔女様おっかないんだし。


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