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知識屋  作者: 吾桜紫苑
第4巻
49/80

親戚はトラブル体質

 件のレトロカフェは、評判以上に凄かった。


 普段は机と椅子がずらりと並ぶ無機質な空間が、嘘のように様変わり。床にはカーペット、天井にはランプやシャンデリア。壁にはレースやらビロードやらのカーテンに、絵画がずらり。

 店内のインテリアも、これでもかとアンティーク家具からちょっぴり近代風なデザインまで、奥から手前に向かって順に新しくなっていくように配置されていた。


 ……よーく見ると、天井のランプやカーテンのデザインもちょっとずつ変わってるから、これ全部、時代別のアイテムなんだろうね。いやあ、気合いの入りぶりが伝わってくるよ。


「よぉ集めたもんやなあ」

「本当に。というか、これ多分コアな知識まで投入しすぎて、僕らには全部は理解出来ないんじゃないの?」

「余程の本好きじゃないとそうなると思うわよ。あの子達、図書館をひっくり返す勢いで文献検索したみたいだから」

「ね〜。生地はヨーロッパにまで買い付けに行ったって聞いたよ〜」

「……それ、もう確実に採算とれへんやん」


 福茂の言う通り。これはもう、儲けがどうとか通り越して、「やりたかったからやった」という勢いじゃなかろーか。凄いなー、文学部の子達。


「それが、そうでもないのよ」

「へ?」

 久慈さんの反論に驚いて首を捻ると、久慈さんは指を1本立てて説明してくれる。


「これだけ再現度の高い品の数々よ? そのまま民族博物館開けるレベル、というのは結構有名な話でね。毎年博物館関係者とか、歴史学者とかがこっそり見に来て、結構な金額で買い取るんですって。事前準備に手を抜かずに頑張るほど、黒字になるそうよ」

「……うわぉ」


 どうやら、うちの文学部の情熱は、プロの学者をして認めさせるレベルらしい。どんだけ。


「てゆーか……そんなガチな代物、こんな不特定多数の前に晒して大丈夫なの? 盗難とか破損とか、被害額大変なことにならない?」


 ぶっちゃけ、知識屋の魔導書に水ぶちまけるレベルにヤバイと思うんだけど。……いや試してないよ、もし僕の魔術が失敗したらの損害額を聞かされただけで。あれは腰が抜けたね、うん。


「ああ、それは大丈夫みたいよ。全部の物品にGPSを付けているとか、防犯カメラで監視しているとか、盗もうとした奴は問答無用で1ヶ月うちの剣道部で揉まれるとか、そんな噂があるの」

「……何気に最後が1番辛い気がするねえ」


 うちの剣道部、何か知らないけど滅茶苦茶ガチ勢なんだよね。毎年全国大会に出て、優勝旗担いで帰ってくるし。噂によると、木刀で人を殺せる集団だとか。おっかない。

 そんなのに揉まれるくらいなら……普通に料金払って大人しく見学するよね、うん。


 ツレの一人に剣道部がいるらしい福茂が真っ青になっているのをテキトーに宥め、僕らは女性陣の気に入った時代背景のブースでテーブルを確保した。6人テーブルでいいのかなーと思ったけど、いいらしい。


「いらっしゃいませ」

 早速給仕に来ておしぼりとお水を持ってきてくれたおねーさんは、ふわふわ半袖のシャツにノースリーブのワンピースを合わせた格好をしていた。……これも手作りなんだろうね、凄く良い出来なんだけども。

「ご注文は、何になさいますか?」

 メニューを示され、僕と福茂は軽食と珈琲、女性陣はケーキと紅茶を注文した。何気にメニューも充実してたけど、これも時代背景考慮しているんだろうか。


「ううん、こっちは流石に現代仕様の味付けよ。当時のじゃあ味が薄くて現代人には無理に決まってるじゃない」

「現実的な判断がありがたや。あ、でもレシピは再現してるんだ?」

「そう。料理研究部と結託して、レシピは再現しながら現代人の口にあうようにって研究してるそうよ。ちなみに衣装は裁縫研究会と結託した手縫いの品ね」

「……もはや一大企画やねんな」

「その通りだよ〜福茂君! 文化部の発表は、その学部の所属部や研究会に、どれくらい協力してもらうかにもかかってるんだって〜」


 ……紅晴大学の文学部が、他大学と比べて異様に採用率が高い理由はこれだね。そりゃあ、これほどの企画力がある学部生とか、普通に取りでしょ。


 やけに詳しい女性陣の解説に、僕と福茂がへー、へーと感心している間に、注文の品が届いた。おいしそーな具だくさんクラブサンドイッチを、四苦八苦しながら持ち上げ──ホントこれって、具がぼたぼた落ちちゃうよね──、いざかぶりついた時。


「──てください」

「……む」


 なんとなーく聞き覚えのある声に、僕はサンドイッチをもぐもぐしながら顔を上げた。


「えー、いいじゃん! そっちの彼女は俺らとー、君はそっちの子らとー、遊んで回ればいーでしょー」

「そうよ! おねーさんたちが案内してあげる!」


 色めきだつような声が入口で聞こえてきた。今度の声は他の面子にも聞こえたらしく、福茂が代表して首を伸ばす。


「……何や、揉めてるなー。ナンパ族っぽいけど、相手の子ちっさいなー」

「小さいというか……あれ、中学生じゃない? 体格的に高校生以下よ」

「あ、ほんとだ〜。中学生をナンパって凄いね〜」


 ……うん、確定。僕はふうと溜息をついて、サンドイッチをお皿に戻して立ち上がる。


「嘉瀨? どないした?」

「ごめん、身内っぽいからここに回収していー?」

「あら、良いわよ。大変そうだしね」

「うんうん、おにーちゃんがんばって〜」


 快い承諾どころか一部の男共に死ぬ程羨ましがられそうな小海さんの言葉に見送られ、僕は入口へと歩いて行った。店員さんが困った顔で介入しようとしてたけど、その前に回収した方がいいでしょーね。



「──化粧と香水の匂いで気分が悪くなるような人達と歩く趣味はないし、下心透けてるクズにれいが付いていくわけないだろ。さっさと消えてくれ」


 しーん。



「……おぉう、遅かった」

 呟いて、僕は額を手で押さえた。うん、こーなる前に回収したかったんだけどね。


「な……っガキのくせに生意気だぞ!?」

「やだこいつ可愛くないー!」

「見た目だけで釣られてしつこく言い寄ってくるような相手に、愛想振り撒く必要なんかない」

「なんだと──」


「はいはいそこまでー」

 色めきだってきた相手の前に、するっと滑り込む。後ろから、あっと小さな声が聞こえてきたけど、今は無視。


 目の前にいる、ツンツン髪の毛を立てたシルバーアクセばっちしのヤンキー風にーちゃんズと、ばっちりメイクにミニスカもセクシーなねーちゃんズに、へらっと笑って見せた。


「まーまー、とりあえず落ち着きましょ。相手は中坊よ? 本気になったら、ちょっと格好悪いでしょ」


 この場の空気ガン無視でのんびり喋ると、気勢が削がれた様子で男が聞いてきた。


「……誰だよお前」

「この2人の親戚です。とゆーわけで、ここは僕に免じて見逃してくれると嬉しいなー、なんて」


 にっこりと女性陣の方に笑顔を振り撒くと、女性陣は顔を見合わせて肩をすくめた。


「仕方ないなあ。じゃあ君、遊ばない?」

「おお、何と素敵なお誘い。普段なら喜んでーって言うんだけどなあ。今日はほら、保護者しなきゃだから。ごめんね、今度遊びましょー」


 両手を合わせて、半分本気で残念そうにお断りすると、くすくす笑いながら女性陣が引き下がってくれた。よし、後は楽だ。

 ちらっと様子を見れば、案の定、女の子の前でダラダラ難癖付けたくないナンパにーちゃんズが、顔を見合わせている。よし、格好付けたいタイプで良かった。


「おにーさんたちもさ、こーんな口の悪いガキンチョより、もっと素敵な女の子探した方がいいよ。うちの大学、レベル高いし」

「……おう、そうだな」

「助言どーも」


 ぶっきらぼうながらも少し剣呑な空気を緩め、にーちゃんズも去って行った。ふう、やれやれだね。



「さーて、そこな少年達。僕達の席が幸運にも2つほど空いてるから、そこにおいで」



 振り返り様、にぃっこりと笑って告げると、顔を見合わせた2人は渋々付いてきた。うむ、断ったら首根っこ掴んででも連れて行くつもりなのを察してくれて、何よりだよ。



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