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知識屋  作者: 吾桜紫苑
第4巻
48/80

学祭、開幕

 晴れ晴れとした、一足早い夏の気候。じりじりと太陽は肌を焼くけど、1歩日陰に入ればひやりと肌を冷やす。

 そんな気持ちの良い天気の元、紅晴大学の学祭は開幕と相成った。


 開会式は……色々と出し物があるんだけど、僕はパス。ああいう、人のごった返した所はちょいと苦手なんだよね。大体ああいう場所はグループでつるむのが好きな人や爆発して欲しいリア充が行くわけで腹が立……おっと。


 ともあれ、僕にとっての本命は出店なわけだ。ついでにかわいー女の子をちょいとナンパして、案内という体で楽しむという案もなかったわけじゃないけど、まあ、うん。……流石にそんな気分にはなれないよね。

 というわけで、ここは取り敢えず1人でフラフラするかなー、なあんて考えでいたんだけど。


「あ、見て見て〜月菜ちゃん、わたあめ! わたあめ食べよー」

「また子供みたいなものが好きねえ、美羽は」

「だって美味しいし食べるのが楽しいから〜。ね、嘉瀨君」

「あはは、そうかもねえ」


 ……何故か、うちの学年で1,2を争う人気女子を両手に花で連れ立っております。まーすごいこと、周囲の視線が刺さる刺さる。


「なーんでこうなったかね」

「嘉瀨がモテるからやで……くそう、なんでこんな風車みたいなやつがええねん」


 ちなみに視線が最も突き刺さるのは真後ろ、福茂からだ。肩をすくめて反論する。


「そんな事言わないの。福茂だってちゃーんと誘って貰ったでしょ。ほら、周りの視線は福茂にも突き刺さってるよ」

「この絶妙におまけなポジションでいるわいに良くも言うやんけ」

「福茂が要領悪いだけじゃない?」


 しょーもない会話をしていた僕達に、女性陣2人がくるりと振り返った。


「嘉瀨君と福重君って仲良いよね〜」

「え、そう?」

「仲が良いというか、普段の会話からコントみたい」


 小海さんの言葉に首を傾げて、久慈さんのコメントに苦笑した。相変わらず直球で素敵。


「福茂と話すと、不思議と面白おかしい方向に会話が向かうんだよね。なんででしょ」

「さあ〜? でも、面白いから良いんじゃないかな?」

「そうね。側で聞いていて飽きないわ」

「それはそれは光栄な」


 やや大袈裟な物言いをすると、久慈さんがくすくすと笑った。うむ、こーゆーユーモアを分かってくれる人、良いよね。


「さて、ひとまずメイン通りの出店は見終えたけども、こっからどーする?」


 校門から一直線に伸びる道の両脇に並ぶ出店は、厳しい衛生&クオリティチェックを通過した猛者たち。どれも匂いだけでよだれが出るけど、まだ朝も1番、そこまでがっつり食べる気にはならない。よって、女性陣はわたあめ、男性陣はラムネ片手に、お昼によさそなメニューを物色してたんだけど、ここから先は全く決めてないのだ。


 なお、建物には行って良さそうなのを、とか悠長な構えだとアウトなのがうちの学祭。客引きにもみくちゃにされて、良く分かんないとこ連れて行かれて1日が終わるのだ。まだ純粋な高校生だった僕なんて、あやうくプロレス体験させられるとこだったもの。


「は〜い! 次は、このカフェに行きたい〜」

 小海さんがパンフレットを指差す。ふむ、文学部のレトロカフェね。

「ああ、これね。実際に過去の文献を調べ上げて、各時代の衣装やアンティークを再現したとかいう喫茶店。気合いの入ったことに、生地から集めたらしいわよ」

「わぁお」


 文学部は毎年根性の入った出し物してくるけど、今年もなかなかな模様。いつだっけか、時代ごとのテディベア再現とかで、全部編み上げたり買い上げたりして準備額が他の出店全部合わせた額より高かった、なーんて伝説があったはず。もはや趣味だね。


 とはいえ、人間趣味に没頭する時が最もクオリティの高いものを生み出せるもの。僕も福茂もさして強い希望はなかったし、じゃあそれに行くかーという流れになった。すたすたと歩いていると、わっと歓声が横から聞こえる。


「んー? 何、今の」

「なんや出し物やっとるみたいやで」

 僕らの中では1番背の高い福茂が、背伸びをしながらそう教えてくれた。何となく顔を見合わせて、そっちへ歩いて行く。折角だもの、野次馬しなきゃ嘘よね。


 人混みを上手いことかき分けて前に進む。いやあ、美女って凄いね。にこっと笑うだけで一気にみんな譲ってくれるから、楽々進める。


 そんな感じですいすい前へ進んだ僕達は、見えた光景に思わず声を漏らした。

「おぉう、これは予想外」

「ほんまやな……」

 男2人微妙に引いている傍ら、女性陣は案外ウケがよろしいようで。


「わぁ、すごーい! 月菜ちゃん、あの人びっくりするほど力持ちだね!」

「そうね、あそこまで行くといっそ清々しいわ」

 ……いや、久慈さんはウケてるともちょっと違うか。でも割と好意的だね。


 見世物の正体は、なんだかやたらとマッチョな男性陣が、ひょいひょいと重たそうな鉄球を投げ合うとゆー、なんちゃってジャグリングだった。


 うん、確かに凄いと思うんだけどね。こう……うん、微妙。筋肉自慢って、むさ苦しいから僕はちょっと苦手なんだよねえ。


「ふぁああ……! 私やっぱりこの大学に行きたーい! 最高!!」

「そんな理由で難関大進学決めるな変態!? というかなんで俺まで付き合わせるんだよ帰りたい!」

「だって瑠依、どうせ家でも宿題サボってごろごろしてるだけでしょー? だったら私のお財布……じゃなかった、筋肉観賞に付き合ってよう」

「あらゆる意味で帰りたい!?」


 割と近くで聞こえた、幼馴染みらしきやりとりほどの温度差はなくても、どこかしこの会話を聞くに、男の子より女の子ウケしてるみたいだね。……暑苦しいの苦手なの、女の子の方が多いって聞いた事あるから、ちょいと意外。


「わ〜、凄いねえ。あんなぽいぽい投げられるんだぁ〜」

 未だ感心している小海さんの肩をちょいちょいとつついて、囁いてみる。


「もーちょい見たい?」

「え? うーん、もういいかな〜。月菜ちゃんは?」

「私も別に良いわ。色々見て回りたいなら、早めにカフェへ行った方が良いでしょうし」


 こういう見世物って、1度アイキャッチしたら長く見ていたがるのが女子だと思ってたけど、このお二人は割とその辺ドライっぽい。それじゃー行きますか、とまた人混みをかき分けてその場を去った。


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