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知識屋  作者: 吾桜紫苑
第2巻
22/80

ウワサ話、発展

 それから1週間、僕の周りは完璧に平穏かつ平凡な日々だった……ように、思えた。


(……思えたんだけど、ねえ……)



「子供の後を追ってお化けに取り憑かれる人が増えたぁ……?」



 思わず僕が声を上げてしまったのも無理はないんだけど。小海さんとその友人である久慈くじ月菜るなさんは大真面目に頷く。


「そうそう、なんか被害が増えてるんだってー」

「前に美羽が嘉瀨君に話した噂が嘉瀨君に話す少し前くらいに大きく広がってね、それ以来みんな夜遅くに1人にならないようにしたり、遅くなったら山は迂回したりして、被害は減少傾向だったらしいんだけど。なんか、ここ1週間くらいで急に増加」

「へ……へえ……?」

(子供……それに、ここ1週間で、ねえ……)


 偶然で片付けるにはちょいと出来すぎた一致に、僕は内心冷や汗が止まらなかった。


「だから嘉瀨君も、本当に気を付けてねー? 噂によると、子供を見ると気付いたらついて行っちゃうみたいなのー」

(ダーウートー。もう、何しちゃってくれてるのかなあ、あのマセガキ君は……)


 小海さんの言葉に、僕はもうほぼ確信。明らかに魔術の力が働いている。一応後で確認取ってみるけど、9割9分彼でしょう。


「嘉瀨やったら誘われてもマイペースに帰ってまいそうやけどな。その子供も男のガキなんやろ? 可愛い女の子やったら嘉瀨もついていきそうなもんやけど、男やったら興味あらへんで」

「ちょっとちょっと、人を女の子とみたら見境無しに追いかける節操無しみたいな言い方するのやめてよね、福茂じゃあるまいし。僕は君と違って真っ当なストライクゾーンの持ち主なんだからさ」


 やっかみ混じりな福重のいわれのない物言いにびしっと言い返す。全く、僕に幼女趣味はないんだよ。男の子らしく遊んでくれる女の子は大歓迎だけどさ。


 仕返しとして「節操なし」と揶揄してやったのに福重が慌てて反論するより先に、久慈さんが僕の言葉に反応した。


「あはは、面白い言い方。でも確かに、嘉瀨君は男の子がふらふらしてるからって余計な心配して後を追うタイプには見えないかも」

「んー、薄情って事かな?」

「ううん。余計な御節介と助けの手を差し伸べる事の違いを弁えてるかなって」

「おおう、予想以上の好評価をありがとう。久慈さんってばよく見てくれてるね」


 にっこりと笑ってお礼を言えば、久慈さんは「出た口説きナンパモード」と苦笑しながらも笑顔を返してくれた。オトナの対応ありがとうございます、流石にクラス1のオトナ美人と名高いだけあるね。


「でも、危ないとしたら寧ろおふたりかも? ほら、母性本能的に男の子が心配になってー、とかさ」


 気を付けなよーと冗談めかして、内心かなりマジでそう言うと、久慈さんは肩をすくめ、小海さんは首をすくめた。


「私、そんな夜遅くにふらついている子供なんて自業自得だと思うの。放置している親と、放置されてるからってふらつく子供のね。同情の余地無しだし、自分の身を優先するわ」

「あうー、月菜ちゃんはそうかもしれないけど、私結構危ないかもー。心配だもん」

 それぞれらしい反応に苦笑しつつ、じゃあと片手を上げてみる。

「2人は一緒に行動してたら丁度良いかもね。助けた方が良い子は助けられて、噂みたくヤバイのはひっからないで済むってゆー」

「あはは、確かに。そうしよっか、美羽」

「うん、私も月菜ちゃんがいたら安心ー」


 笑顔で言い合う2人の可愛さに和みつつ、僕はさりげない風を装って立ち上がった。


「じゃー僕はバイトなんで、これにてー。後はそっちの福重で遊んでやって」

「あはははっ、嘉瀨君って相変わらずおもしろーい!」


 意図せず軽口がお気に召したらしく、久慈さんから素敵な評価をいただいた。とっておきの笑顔でお礼を言って、妬ましいやら嬉しいやらでヘンな顔になっている福重にもついでに手を振って、いそいそとバイクへと向かった。






 バイクで飛ばす事数十分。件の山の麓にやって来た僕は、辺りを見回し人がいない事を確認してから、こそっと声を上げた。

 最近訓練している、声に魔力を乗せるって言うおまけ付きで。


『チビ達、しゅーごー』


 返事はない。けど気配はさわさわと忙しないから、聞こえてはいるらしい。お昼寝を邪魔するなって所かね。


(仕方ない。もので釣るのはあんまり良くないんだけどね、教育上)


 溜息をついて、言い添える。

『協力してくれるなら、今夜はお菓子を倍にしてあげるよー』


『手伝うぞー!』

『俺達とりょーへーの仲だもんなー!』

 途端わらわらと先を争って現れたチビ達の現金さに内心ちょっぴり笑いつつ、僕はぴっと指を1本立てた。



「ただし、成功報酬ね。今夜——」



 僕のお願い事を聞いたチビ達は、予想外にもちょっと難色を示す。


『りょーへー……俺達もこの辺りの良くない噂は仲間から聞いた事あるけどよー、本当に危ないみたいから、関わらない方が良いぞー』

『どーしてもってなら、あのねーちゃんに頼んだ方が良いと思うぞー。りょーへーには危ないって』

「んー……僕としても、あんまり関わりたくないんだけどねえ。乗りかかった船というか、猫をそそのかした責任というか」


 普段だったら迷わず避けるだけで済ませるんだけどね、僕も。これがつい1週間前までお世話になって恩のある子となると話は変わってくるのさ。しかもタイミング的に、あの子がこの件に関わり出した切欠ってまず間違いなく僕だし。流石にこれで知らんフリ出来る程、僕のなけなしの良心は図々しさを搭載してないのだ。ああ、僕ってばお人好し。


「一応眞琴さんには言っておくよ。いつも忙しそうだから微妙だけど、もし時間があるようなら来てもらう。それで良いでしょ?」


 ちゃんとお菓子上げるからさーと拝んでみると、チビ達は頼りにされたのが嬉しかったのか胸を張った。


『おう! そこまでりょーへーに頼まれたらやるっきゃないよな!』

『任せろよー、夜のこの辺りは俺達の縄張りだ!』

「ん、頼りにしてます。よろしくねー」


 元気よく頷いてくれたチビ達に感謝を込めて手を振り、僕はバイクにまたがり『知識屋』へと急いだ。


久慈月菜さん。

『久慈』家の『月菜』さんで『くじけるな』という。

山大さん発案。ありがとうございました。

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