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知識屋  作者: 吾桜紫苑
第1巻
2/75

大学生の僕

 大学の授業というのは、どうしてああも眠いのだろうか。一応これでも高校まで授業で寝た事など数える程しかなかったというのに、大学に入ってから毎日寝落ちている。


「ふあ……」

 今日も今日とて最後の講義で寝てしまった僕こと嘉瀨かせ涼平りょうへいは、堪えきれずに小さな欠伸を漏らした。



 7月中旬。1年生である僕は共通の授業がメインで、学部の授業もいい加減。流石に大学生活にも慣れ、けれど試験までにはまだしばらく時間があって。良い具合にだれるこの時期に、活き活きとしているやつなんて限られてる。


 部活をがちでやっている奴とか。

 サークルでわいわいやるのが楽しくてしょーがない奴とか。

 恋人が出来て舞い上がっている奴とか。


 ……む、意外といるな。


 まあ何にせよ、僕はそのどれにも当てはまらん訳で。自然、並ぶといつまでも乗れないからと僕を追い抜きバス停にダッシュしていくご同輩を眺めながら、だらだらと歩く事となる。



「嘉瀨、相変わらずかったるそうやなあ」

 声をかけられ首を巡らせると、大学に入ってから何かとつるんでいる同級生、福茂ふくしげ辰人たつとがそこにいた。

「だあってかったるいじゃないか。今日の授業も眠かったしさ。それとも何、福茂は真面目に聞いてた?」

「んなわけあるかいな。がっつり睡眠時間に費やさせてもろたで」


 にしし、とお前どこの人間だよと言いたくなるような笑い方をした福茂は、ぽむと僕の肩に手を置いた。


「嘉瀨もがっつり寝たんやろ? せやったら、今からちっと遊びに行かへん?」

「……まーた合コン? 好きだねー、福茂も」

 言いながら身を捩って肩に置かれた手を振り落としつつ、福重の顔を見上げる。


 サイクリングを趣味に持つ為か見事に日焼けした肌、それでも不自然さの無いワイルドな顔つき。南米当たりにぽいと放り込んだら見分けが付かなくなるんじゃという疑問なんだか確信なんだかを持たせてくれる外見の福茂は、黙って立ってたら十分モテる。

 黙って立ってたら、だけど。


「当たり前やろ。努力せんかて彼女出来るんは一握りの人間やで? こっちから攻め気でいかんと、いつまでもお一人様や」

「だからといって、福茂のようにがっついてたら逆効果じゃない? 女の子は意外と下心には敏感だよ。ナンパも今時流行んないし」

「男がエロイんは世の定めやで。それを隠してどないすんねん」


 そう。何とも残念な事に、福茂は軽いノリのナンパ野郎なのだ。もちょいがっついた雰囲気と見え見えすぎる下心を隠していけばきっと入れ食い状態だというのに、それが出来ないのだから、全く残念な男である。


「福茂のはやり過ぎ。だからいつも逃げられるんでしょ」

「せやから嘉瀨を誘ってんねん。嘉瀨がおるとなんか上手くいくんや」


 そりゃーそうだ、僕の方が女心を理解している。にっこり笑って冗談言って、露骨な事を言わずに関われば、街にいるオネーサマ方は遊んでくれるのさ。あくまで遊びだけど。


「んー、怠い。めんどくさい。てゆーか僕、そこまで興味ないんだよ」

 けど、高校時代と大学入って数ヶ月間それなりに遊んでたら、飽きた。みんな似たよーな感じだし、こいつ程僕は盛ってない。


「そお言わんと、付き合ってーな。ほれ、ツレを助けると思うてやな」

「福茂と行くとたまに僕まで嫌われるしやだ。とゆーか僕、今からバイト。君と遊んでられる程暇じゃないの、お分かり?」

 そう言ってみせると、福茂は不思議そうな顔をした。

「はん? 嘉瀨、バイト辞めたんやなかったか? 面倒とか言うて」

「それもうふた月以上前の話だから。新しく始めたのさ。ビンボー学生は辛いね」

(まあ、正確にはバイトでは無いけど、さ)


 心の中で言葉を完結させていると、福茂はにやっと笑って俺の首に腕を回した。暑苦しいやつだな。

 福茂は割とでかい。180には届かないまでも、近い。対して僕は170届くか届かないか。結構差がある状態で首に腕を回されると、ぶっちゃけ重い。


「どこで働いてるんや? 折角や、冷やかしたる」

「お生憎と、君のような遊んでばっかの学生には一切縁のない所だよ。まず何も楽しめないさ」


 そう言って、力尽くで腕を引き剥がす。バランスを崩す福茂をひらりと躱し、僕は歩き出した。


「ま、そういう訳で、僕は仕事行くから。またな、そろそろ出席の危ない福重君。明日も会えると良いね?」


 僕に代返頼む事数知れず、その上寝坊してばかり。夜遊びしすぎな福茂は、何と代返を頼みまくっているにも関わらず出席がやばかったりする。遊びって言うのは日常に支障の出ない程度にほどほどに済ますから遊びというのだ。そのさじ加減の分からないこのお馬鹿さんは、本当にどうしようもない。


 顔を顰める気配を背中に感じながら、僕は「バイト」に向かうべく、行列の出来たバス停を通過し、バイクを止めている駐車場へと向かった。

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