その少女は
貴方には視えますか?
その少女は透明である。
いや正確に言えば透明であった、か。
霊体というものである。私は昔から見えた。
今遺体安置所に見える少女の遺体とその右上
天井の隅っこで震えている少女の魂が私だけに見える。
死神が首を刈ったので霊体から霊魂として「完全なる死」
を遂げたので霊感のある人なら誰でも見る事が出来る存在に
変わったのだ。
ただ普通の人から見れば透明であると私は最初思ったのだ。この現象について。
私には死神も見る事が出来る。
だからまず天井の隅で戸惑っている首の無い少女の霊魂をすーっと吸い込み
死神に私の寿命を与える事で首を返してもらった。もちろん後10年なのか20年なのか
もしかすると明日私は死ぬのかはわからない。世間一般でも通じる概念であろう。
私は死神から手に入れた少女の首もすーっと吸い込み体の中で再構成した。
するとその少女の記憶がぱーぅと私の脳みそに映画館のスクリーンが徐々に開くように流れ出した。
それは父親からの性的虐待、中学一年生の頃の事の様だ。私は見るに堪えない。
そしていじめ。ブサイク、消えろ、近寄るな、男の子達は少女を黴菌か何かだと感じているのか。
よくある話だ。子供の養育を知ったかぶりした父親、この父親は教鞭をとっている偉い人間だ。
ある意味最低だが。そしてかなり年下の妻との夫婦喧嘩。優しいこの少女はただひたすら家庭の平穏を願っていた。学校に行けない、行かない私は屑だと。人間の屑だと。そんな彼女を産み出した両親に何の恨みも持たない純粋な子だった。
全く希望の光が見えなくなった。光とはこの世でもあの世でも尊いものだ。例え深夜のネオン街のような物でも。彼女は絶望した。そして自殺した。妻は夫と別れ一生男とは口も利くものか。神は女神でなければならない。そう信じた。そしてその妻、つまり「私」はあの娘と一心同体になった。触れはしないが言葉を交わすことが出来る。それだけでありがたい。人間は過ちを犯す。しかし死神にさえ慈悲の気持ちはあるのだ。
私は娘とほんのちょっと短くなった人生を一緒に過ごす事が出来る。
「よし。頑張ろう」
ママありがとう…… そんな声が聞こえたような気がした。