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幕間・これからのこと

幕間だけあって、非常に短いです。

普段の半分もない……。

 


 どうにか初陣を終わらせ、上ノ郷城に帰還した俺を待っていたのは、家族からの暖かい出迎えであった。


「三郎、よく無事に帰ってきてくれたな」

「お帰りなさい、三郎君」

「只今帰りました」


 父上と次郎法師さんが館に入った俺を出迎えてくれた。

 二人とも出陣前から何も変わっていない。まあ、一か月も経っていないから当たり前だが。


「弟に委細は聞いている。見事に初陣を飾ったようだな」

「ありがとうございます。ですが、際立った武功を挙げることは出来ませんでした」

「なに、気にするな。初陣だからと言って大功を挙げなければいけないと言う訳では無い。生きて帰ってくることも武功の一つだ」


 父上が上機嫌な表情で言った。

 戦上手ではあるが、ガチガチの武断派と言う訳では無い父上は、面子に対するこだわりはあまり無いのかもしれない。

 鵜殿家自体、武断派と言うよりは文治派に近い感じの家風だし。


「今日は三郎の初陣成功を祝って宴だな」

「楽しみです」


 その日の宴会は、相当な規模のものになった。

 分家である下ノ郷家当主・仙厳殿や与力である朝比奈輝勝殿、それに政信たち家臣団まで巻き込んで無礼講の酒宴を行い、べろべろに酔っ払って夜遅くまでバカ騒ぎ。寝所に潜り込んだのは日付が回ってからのことであった。

 二日酔いに悩まされたのは言うまでもない。






 ~鵜殿さんちの氏長君・目指せ譜代大名~






「頭が痛い……」

「あんな馬鹿騒ぎをするからでしょ。自業自得!」


 翌日。

 二日酔いに悩まされている俺を、優しく膝枕で介抱してくれているのは次郎法師さんである。

 柔らかくて気持ちが良いが、その感触を感じ取る余裕は今の俺には余りないのである。無念。

 ちなみにこの人はお酒を余り飲まない主義らしく、昨日も早めに切り上げて自室に戻ってしまっている。

 ……一緒に引き上げておけば良かったかもしれない。


「うう……」

「はいはい、動かない動かない。さっきみたいに吐いちゃうよ~」


 前頭部を優しく包み込むように動く、ひんやりとした手の感触が何度も通り過ぎ、それと同時にぞわりという鳥肌の立つ感覚が体中を襲う。

 ああ、気持ちいい。

 まるで飼い主に撫でられる猫や犬の感覚である。

 というか、結婚してこの方、俺はこの人にペット扱いされている気がしてならない。

 夜な夜な抱き枕の代わりにされることといい、色々と弄られることといい。


 駄目だ。

 思い出したら一人の男として見られたことが殆どない。


「ねえ、お姉ちゃん」

「なあに?」

「俺のこと、飼い犬か何かだと思ってない?」


 首を上向きに傾け、俺の顔を覗き込んでいる碧色の瞳を見つめながら、この疑問をぶつける。


「ふふふ、さあどうかな?」

「……」


 悪戯っぽい笑みを向けて、彼女はそう言った。

 これは確信犯ですね。

 まあ、あちらから見れば12歳も年下なわけだし、その扱いも仕方がないのかもしれないが。

 ……気恥ずかしい。



 それはともかくとして、これからのことを次郎法師さんの膝の上で考える。


 史実通り、徳川家と吉良家の合戦は起った。

 このままいけば、間違いなく一向一揆も発生するだろう。ある程度ずれはあるだろうが、おそらく今後数年以内に三河国内に散らばる火種は確実に爆発する。

 信じられないほど簡単に武装蜂起を行う連中なのだ。一向宗というのは。


 別の宗派が勢力を伸ばすのが気に入らない、大名の介入がムカつく、さらなる権益が欲しい、その他諸共。


 民百姓を唆して統治者に刃を向けさせる分、そこらのならず者以上に性質が悪い。しかも、それを率いるのは世俗を捨て去って殺生厳禁の筈の坊主である。

 仏様が泣くぞ……。


 それに、一向宗が西三河一帯に持つ権益と勢力は、三河に勢力を広げ、安定した統治を行おうとする徳川家と、その主家である今川家にとっては目の上のたんこぶだ。

 織田信長が天下統一を進める過程で石山本願寺と全面戦争を繰り広げたように、富国強兵の真っ最中であり、領国内における統治力を強化しようとしている今川家とは必ず衝突する。

 上ノ郷城のある額田郡を含む東三河は一向宗よりも曹洞宗の影響力が強いため、この辺りまで一揆の余波が及ぶ心配は余りないが、いざ一揆が起これば、我が家も無関係という訳にはいかないだろう。

 倒しても倒しても沸いてくるようなイメージのある一揆兵の相手などしたくないが、こればかりは仕方がない。信長をはじめ、戦国武将の殆どはこういった寺社勢力との戦闘を経験している。

 いつもの通り割り切るしかない。

 家康の三大危機と言われ、徳川家臣や分家の一部が敵対した三河一向一揆であるが、独力でそれらと戦うことになった史実と違って今川家の援護を得ている以上、そこまでの危機に陥るとは考えられない。 何よりも一向宗が全面的に此方に牙を剝けたとなれば、義元様もそれ相応の対応をとるだろう。余計な心配は逆に彼らに失礼だ。


 さらに、一向一揆が引き起こる前にやっておきたいことがある。



 ――板倉勝重のスカウト。


 それが今、俺が最大の目標にしていることである。

 吉良家との戦で思い出したのだが、善明堤の合戦が起こらず、彼の父親・板倉好重は戦死しなかった。これは確認したので間違いない。

 この時期には出家しており、この戦で親が戦死したことによって還俗したと言われる彼だが、その機会が潰された以上、このまま彼が世に出ることは無いかもしれない。


 史実では江戸幕府の町奉行、京都所司代などを歴任し、かの大岡越前が登場するまで名奉行と言えば彼のことを指す、と言われるほどの人物。

 坊主のままにしておくのには非常にもったいない。ぜひとも身内に引き入れたい。

 それに彼がいれば、領内の統治が素晴らしく円滑になるかもしれないのだ。三顧の礼を用いてでも登用する価値はある。

 今何処にいるかは流石に分らないが、岡崎・幸田辺りの寺を手当たり次第に探せば絶対に見つかるはずだ。最悪、板倉好景のもとを訪れて聞けばよい。

 意地でも見つけ出してやる。


 ――俄然やる気がでてきた。ぐったりしている場合じゃない!


「二日酔いを治してからね」

「はい……」 


 頭痛がするのも忘れて膝の上から跳ね起きた俺を、次郎法師さんは優しく宥めた。






しばらくは内政パートです。

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