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首枷

 手すりも何も無い崩落した狭い幅の階段を一歩一歩慎重に進む。時折下から吹き上げる風がいたずらに羽織うマントを揺らした。

 二人は無言のまま強張った体を必死で前に進めていた。こんなにスリリングな階段を登ったのは初めてだ。


 一歩踏み出すごとにパラパラと落ちて行く石の破片の音に、ドキリと胸を高鳴らせながらもやっと渡りきると思わずヘナヘナと腰を落とした。

「帰りもここ通るんだよな………」

「今は考えるのはよそうよ。……この上に目的地があるんだから」

 暗い闇の中を手探りで進み、やっと登り切ると長い廊下の先に青い炎が揺らぐ部屋があった。

「あそこだ」

 どんな灯りでも漆黒の闇の中に灯っていれば、それは希望の光だ。それに(すが)るかのように二人は走り出した。


 殺風景な城の中とは異なり、ここの部屋には確かに人の温もりを感じる。床に敷かれた毛足の長い絨毯に、緻密な彫刻に金装飾が施された歴史を感じさせる重厚な家具一式……。

 しかし、そんな家具たちでさえ見劣ってしまうものが立派な鏡台の隣にある硝子ケースの中に納められていた。

 蝋燭に灯された炎の弱い光の中、ひたすらにその存在を誇示し続けるドレス。

 それを見るなりヴェントの足がピタリと止まる。

「ヴェント?」

「俺が届けたウェディングドレス…これだよ」

 純白のウェディングドレス。

 あの時はまさかこんな事になるなんて思っていなかった。

「その時には…もう彼女は生きていなかったんだね…」

 ベアトリーチェの話と魔神が出現し始めた日を照らし合わせると、恐らく彼女が生き返った時はヴェントがドレスを届けたあの夜だったのだろう……

「ウェディングドレスを死んだ女に着せるってどんな気分なんだろうな……」

 同情する気はないが、あの肖像画の中の男とベアトリーチェの事を考えると複雑な気持ちになる。

 全てを捨てるほど思っていた相手が死んで、この広い城の中にたった一人で残された時自分ならばどうなってしまうのだろうか………

「多分生きていけねぇよな………」

「…………………」

 言葉を失い、静寂に身を(やつ)しているといきなり城の下のほうから大きな衝撃音が響き渡る。

「!!!」

「やべぇ!! 早く……えっとベッドの下…ベッドの…」


 巨大な天蓋つきのベッドの下から赤い光が漏れていた。覗く込むとそこにあの首枷が落ちている。

内側に掘られた文字のような物が赤く妖しく光、激しい唸りを上げ蠕動(ぜんどう)していた。

「これって…アイツの腕輪と繋がってるんだろ?………」

「だとしたら今、物凄い力を使ってるんじゃないのかな」

「俺達が触って大丈夫か?」

「考えてる暇は無いよ!!!」

 コンデュイールが恐怖を振り切り、瞳を堅く閉じながらその枷を掴む。

「オイ。コンデル大丈………」

「…大丈夫だよ………熱いけど火傷をする程じゃないし……」

 聞こえてくる衝撃音と呼応するようにそれも唸りを上げる。

「アカトリエルさんとベアトリーチェが絶対マズイ事になってるぞコレ!!!」

「早く届けないと…」

 部屋にあった燭台を手にするとそれに扉の前に灯る青い炎を宿し、二人は急いで来た道を戻り始めた。


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