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勝利の糸口を求め………

「ヴェント!! 最も高い塔の魔女の部屋って分かるの?」

 地獄絵図のようなエントランスから抜け出し、階段を駆け上りながらオランジュが前を走る少年に聞いた。

「分かるわけねぇだろ!! それでも外から見てあの塔があそこだったから方向的にはこっちだと思う。俺に任せとけ」

「思うって…………」

 階段を駆け上りながらコンデュイールが苦笑いを浮かべる。

(ヤベェよな。間違えてたらマズイぜコレ)

 どさくさに紛れて大きな口を叩いたが、自信などあるわけが無い。先陣を切り、勘で突き進む彼の顔には冷や汗がにじみ出ていた。


 不意にその時目の前から二人の男が歩いてくる。白いローブと黒いローブの男………

「うおおぉ!! アカトリエルさんじゃねぇか!!」

 曇っていたヴェントの顔がパッと明るくなった。地獄に仏とはこういう事だろう。アカトリエルの姿を見てこれ程喜べるのだから不思議だ。

「クレイメントさん?!」

 アカトリエルに抱えられている老人の姿にオランジュが声を張り上げた。黒魔道師の方はそうとうな深手を負っている。

 漆黒の司祭服は血に(まみ)れ、右手に至っては八割が失われている。逞しい息子に抱えられながらもやっとの事で歩いている感じだ。

「どうしたの? どうしたの? クレイメントさん!! 痛い? 痛いの? 大丈夫?!」

「案ずるな…死にはしない……」

「お前たちは無事だったか。私の部下は……」

 その言葉にヴェントの顔から安堵の笑顔が消え失せたのを見るとアカトリエルは「そうか…」と呟いた。

「クロノスさんが頑張ってくれていたんですけど……今は壊滅状態です」

 コンデュイールの顔が暗く沈んだ。

「魔道神はどうした」

「………ベアトリーチェが………」

 後方に居たクラージュの表情には哀願の色が浮かんでいた。唇を噛み締め、拳を握り、いきなり声を張り上げる。

「ベアトリーチェが一人でっ………!!」

「!!」

「そうよ! 私たちあの美人魔女の部屋でクビカセを持ってこないといけないの!! クレイメントさんたちは魔女さんのお部屋に行ったんでしょ? 何処にあるの?!」

「首枷? ……何か…考えが…あるのか?」

 ウェルギリウスの声も弱弱しい。オランジュは小さな体で老人の身体に抱きつくように支えると何度も頷いた。


「ウェルギリウス殿を頼めるか?」

 歩み出たクラージュにウェルギリウスを(たく)すとアカトリエルは腰の長剣を整えた。

「父上、詳しい道をこの者たちにご指導をお願いします。娘とクラージュ司祭は父に付いていてくれ。ヴェント・エグリーズ、コンデュイール・レヴェゼ…二人で行けるか?」

「えっ…まぁ、敵が居なけりゃ二人でも行けるけど……アカトリエルさんは?」

「私はベアトリーチェの加勢に行く」

「加勢って……アカトリエルさん、あの魔道神って奴、化け物だぜ?」

「私は黒魔道は使えぬが、黒魔道防御(ぼうぎょ)(よく)制法(せいほう)ならば心得ている」

 そう言い残すとアカトリエルは素早い身のこなしで階段の柵を飛び越えると一瞬で姿を消した。


「くろまどうぼうぎょよくせいほうって何?」

「黒魔道と対抗するための特殊能力よ………デザスポワールとエテルニテの混血故に得た力らしい…………始めて聞いた時は驚いたがな……」

「それじゃあ勝てるの?!」

「時間は稼げるだろうが……無理だ……」

 そう呟くとウェルギリウスはヴェントとコンデュイールに目を移した。

「今から道順を教える。地図を頭に叩き込み、なるべく早く戻れ……ダンテ……いや、アカトリエルが死ぬ前にな…」


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