開戦
鋭い切っ先が空を切りヴェントたちが反射的に身を屈めた。
ガリガリガリッ!! ……と音を立て、剣の刃が大理石の破片を撒き散らしながら柱を抉る。
「マジかよ………」
魔兵は素早く回転するとそのまま第二の攻撃を仕掛けてくる。
咄嗟にコンデュイールが剣を抜きその刃を弾いたが余りの力の差に大きくよろけ床に腰を打ちつけた。
「コンデル!!」
「危ないヴェント!!!」
思わず飛び出したヴェントの足をオランジュが両腕で掴み、前のめりに倒れ込んだ。その瞬間倒れこむヴェントの頭擦れ擦れを剣が掠め、切られた銀の髪が宙を舞う。
顔面を思い切り固い床に打ち付けたが一歩間違えていれば首が飛んでいた事に気付き血の気がサーッと引いて行く。
しかし間を置く事無く倒れる二人に剣が掲げられヴェントは思わずオランジュの重厚なフライパンを取り上げると目前でその刃をブロックした。
「ちょっ……待てよ……何だよこの馬鹿力……またこのパターンかよ」
以前ガドリール相手にもこんな状況になった事がある。
「ヴェント!!!」
コンデュイールが素早く起き上がり、反射的に切りかかっていた。ブロックしていたフライパンが一気に軽くなる。
ジャリンッという音と共にコンデュイールの手に持たれている剣が勢いよく弾かれ宙を舞っていた。
それと同時に腹部に強烈な打撃が加えられ警団の少年の身体は遥か後方に飛ばされた。
「死体がローキックってありえねぇだろ!!」
ゾンビと言うほど生易しくはない。
戦い方は確実に戦術慣れした双剣徒のものだ。
魔兵がコンデュイールに気を取られている内にヴェントは立ち上がるとオランジュの手を引き、そのままクラージュの元に彼女を突き飛ばした。
「クラージュ司祭ちょっとそいつ頼んだぜ!!」
そう叫ぶとヴェントは腰を低くして両手に短剣を構えた。
コンデュイールを蹴り飛ばした後、目の前の元双剣徒は静かに立ち直ると影商人の少年に向き直った。
「腸、出てるぜ…死んでんだよな…それじゃ何処狙えばいいんだよ」
戦っている双剣徒たちは首を刎ねている。だが短剣では首を刎ねるのは難しい……しかも相手は死体とは言え双剣徒の一人だ。
魔兵が床を蹴り剣を振り掲げた。
「くそ!! 初めての実戦相手がいきなりベテラン騎士なんてあり得ねぇよ!!」
後ろに飛び退き次々と繰り出される刃を間一髪でかわし、首に狙いを定めるてみるものの、やはり相手が懐に飛び込ませてはくれなかった。
再び繰り出された第二刃を反射的に避けるが、頬から赤い血が飛び出す。
(ヤベェ!! 今少し当たったぞ!!)
ヴェントの額に冷たい汗が滲んだ。
動体視力を研ぎ澄ませ必死でチャンスを狙うが避けるのに精一杯でどうにもならない。