死霊術
再び動きを見せたのはガドリールだった。
血が滴る首の口から低い呪文が響く。
「………何だ?」
開け放たれている城の扉、その外から何かが蠢く無数の音が聞こえ始めた。
外に何かが居る………
クロノス含めた双剣徒たちは階段の上のガドリールに気を配りながらエントランスホールの中心に円となって隊列を組み扉の外の闇を見つめた。
「何か嫌な予感がします。ドアから離れた方が……」
クラージュが呟いた。
今置かれている状態も最悪だがそれ以上の何かが迫っているような気がする。
「何よクラージュ司祭。変な事言わないでよ」
おたまを持った手でヴェントのマントをぎゅっと掴みながらオランジュが頭の鍋を深く被りなおした。
ガドリールは何の動きも見せない。ただ自分達をニタニタと眺めているだけだ。
万全を期してヴェントたちも扉からなるべく遠い柱の裏に移動する。そして…
真っ黒な外の空間……
突如そこに現れた伏兵に皆の顔が強張った………。
エントランスの光の下に現れたのは真っ白なローブを真っ赤に染めた双剣徒たちの姿だった。
身体のいたる所を損傷した死体たちが長剣を手に持ってふらふらと揺れている。
「ゾ………ゾンビよ!!! ゾンビじゃない!!!!」
オランジュが扉から入ってきた者たちを見て、らしからぬ黄色い悲鳴を上げた。
「っ………これが死霊術か!!」
死体を操る術は聞いた事がある。
これもデザスポワールの伝説の中で伝えられている黒魔法だ。
彼らの司祭の中には死霊術を得意とするネクロマンサーという者がおり戦場では敵味方と問わず死んだ者を魔兵へ変えたという。