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玩具

「この力……」

 白い光と雷の轟に誘われベアトリーチェが階段の下を覗き込んだ。

 あの呪文を唱えてからガドリールは部屋から一瞬で姿を消した。

 急いで彼の姿を探し彷徨(さまよ)っている時にあの昨晩の強大な魔力の干渉を再び察知し恐怖を覚えたのだ。

 はるか下の階から巻き上がってくる力に肩を震わせベアトリーチェは急いで階段を駆け下りた。

「やり過ぎだわ。こんなに力を増幅させたら人間である身体は長くは持たない…」


 これ程の魔法力を見せてしまってはガドリールの興味を引くばかりだ。

 (なぶ)り殺される!!



 荒々しい稲妻を身に(まと)った老人を眺めながらガドリールは微動だにせず第一波の攻撃を待っていた。

 最高の玩具を見つけた子供を感じさせる笑みを浮かべながら。

「リュイーヌ・デュー!!! これが我が渾身(こんしん)の一撃!!!」

 ウェルギリウスの体内から発せられた稲妻が彼の周りに巨大な魔方陣を一瞬で作り出した。

刹那(せつな)広がった陣の中から凝縮された電流が頭上高くあふれ出し、強力な閃光と共に術師と魔神の巨躯を飲み込んだ。


「きゃあっ!!!」

 その凄まじい衝撃波がベアトリーチェの細い身体を弾き飛ばし、彼女は石畳で造られた城の壁を突き破り、その向こうの部屋に叩きつけられた。

「かはっっっ!!」

 口から赤い鮮血を吐きながらも必死で意識が遠のくのを堪える。


今ここで自分が意識を失ってしまっては彼を止める事が出来ない。

ガドリールは大量の殺戮をすると高揚し、残酷な快楽に身を(やつ)してしまう………あの北警団を襲った時にも私の声が届くまでに時間が掛かった。


 はあ……はあ……と息を荒くしながらもベアトリーチェは壁にもたれるように立ち上がった。


 …………胸が苦しい…………息が出来ない…………どうやら肺の一部を損壊したみたいだ。


 しかし、その苦しみは(わず)かな間に消え失せた。

 この身体がすさまじい勢いで治癒したのだろう。口から溢れ出た血液もいつしか止まり、口の周りについた血液を拭いながらベアトリーチェは突き破った壁から再び廊下に飛び出した。

「ガドリール!!!」

 舞う砂埃から逃れるように階段に足を踏み入れた瞬間彼女は思わず息を呑んだ。


 階下の階段が城の壁もろとも粉砕され大きな口を開けていた。

 巨大な穴から外の冷たい風が城の中に吹き込んでいる。

 階段は途中で崩壊し、崩れ落ちた壁では未だにパチパチとした小さな放電が続いている。


 ガドリールはそこに居た。


 全くの無傷…しかし、あの黒魔道師の姿が見えない。


 必死で老人の姿を探すと崩落した壁の向こうから骨ばった手が除いていた。

 どうやら極限の力に耐えられずに身体ごと吹き飛ばされ壁の向こうに片腕でぶら下がっているようだ。


《く・く・く・く・くくくくくくくくくくくくく………》


 夫が肩を震わせ笑っている。

 彼は階段が崩落した宙に一歩足を踏み出すと滑るようにその老人の手が覗く場所に移動した。


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