闇の世界
「きゃあっ!!!」
叫びながら身体を丸めるオランジュを庇いながらヴェントとコンデュイールも床にしゃがみ込んだ。
一週間ほど前に巻き起こった大地震の再来……
高い天井に備え付けられている巨大なシャンデリアがガタガタと音を立て、積もった埃がエントランスホールにパラパラと降り注ぐ。
「オイ!!!アカトリエルさん!何だよこれ!!!」
「奴が目を覚ました………」
燭台が倒れガラスで施された装飾が砕け飛び散る。
立つ事もままならない程の揺れがしばらく続くとそれは突如活動をピタリと止めた。
まるで嵐が過ぎ去った後の静寂…
しばらく警戒しながらその場にふせっていると次に聞こえたのは不気味な低い声だった。
外からとも、城の上からとも言えず響く呪文………
そして城の中を漆黒の闇が襲った。
開け放たれたままの扉から差していた柔らかな朝日も、窓から差し込む光も一瞬で奪われ真っ黒な空間が広がる。
「やだ、どうしたの?もう夜になっちゃったの?」
ヴェントとコンデュイールの服の裾をしっかりと両手で掴みながらオランジュが怯えた声を出した。
「夜にはなんねぇだろ……日が昇ったばかりだぜ?」
暗闇の中でヴェントの声が響く。
「おい!!どういう事だよアカトリエルさんよ!!!」
しばらくして闇の中からアカトリエルの言葉が返って来る。
「恐らく……失敗したのだろう…」
闇の中にか弱い灯りが灯った。
双剣徒たちが持っていたランプの炎だ。
その明かりに誘われるようにヴェントたち四人は双剣徒の中に慎重に歩み寄った。
「外へ出ろ。城の中は危険だ」
「あんたは?」
「私は父を探しに行く」
「一人で行く気かよ!」
「一人で十分だ。部下やお前達を私情で危険に巻き込むような事は避けたい」
「アカトリエル様。すでに何処も安全とは言いがたい状況です。私もご同行します」
「いい。クロノス、お前は部下を指揮しろ。私に代わり指揮権を持つのはお前だけだ」
「しかし!!!」
「これは命令だ。外の様子を見て来い。嫌な予感がする」
魔神が起きたのならば大量の食材をみすみす帰す訳は無い。
地の底から響いて来たような先ほどの呪文の意味も断片的にだが感じ取る事が出来たが……
解釈が間違っていなければ最悪な展開だ。