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目覚め

 書き終えた魔方陣の上に鎖で繋がれた手枷と首枷を置くとウェルギリウスは聖杯の血液を掲げ、その枷の上に残っているガドリール全ての血液を注いだ。

 老人の口から複雑な呪文が紡がれ、魔方陣が血液と同じ色の光を放射し、甲高い音を上げ始める。


 聞き覚えのある言葉だった。


 今のガドリールと同じ複雑な発音の言語。

 ウェルギリウスが呪文を唱えるとその枷の内側に掘られた文字が光を発し、注がれた魔道神の血液全てを飲み込んでいく。


「我が封印を求めし者は汝の血。(まこと)終焉の魔道神ガドリール・リュイーヌ・デュー・オグレスなり」


 その言葉と共に、掘られた銀の文字が深紅に染まり、鉄枷が不気味な光を纏った。

 ベアトリーチェもその禍禍しさに身を震わせる。

 ウェルギリウスはそれを手に取るとベッドの上で眠るガドリールを振り返る。

「これを…彼に付けろというの?」

「殺戮を止めたくば心を鬼にして実行するしかない。成功するかどうかは分からんがな」

「………分かったわ。貴方は逃げて………私が彼に付けるから」

「魔道神の血が流れるお前に持てる代物ではないぞ」

「大丈夫よ。死にはしないわ。早く逃げて。貴方はとても良い父親みたいだから……あの白いローブの彼に無事で返さないと」

「良い父親か……一度は子を捨てた身の私には出来すぎた言葉だ」

「それでも彼は貴方を愛しているわ。さぁ行って…もう時間が無いのよ」

 ベアトリーチェの言葉に促されるようにウェルギリウスは静かに頷くと部屋を後にした。

「私は最後まで父を愛せなかったわ」

 静寂に包まれた部屋で呟きながらベアトリーチェは低く唸りを上げ続ける机の上の赤く光り輝く枷に向き直った。

 ガドリールの血を飲み込んだ鋼鉄の物体は今やおぞましい程の力を発揮している。

 この枷もガドリールの父が残した息子を思うが為の愛情だ。


 彼女が欲しても手に入れられなかった物………


 時計を振り向くと既にタイムリミットが迫っていた。


 彼女は心を決めてその魔封の道具を手に取った。

「っ………!」

 ベアトリーチェの手がそれに触れた途端、凄まじい力が湧き出でる。

 まるで全身の全ての力を吸い尽くさんとする程の力に思わず落としてしまった。

「私の中にある彼の血に反応してる………?」

 こんな物を当の本人が付けたらどうなってしまうのだろう…そう思いながら彼女は机の引き出しからハンカチを取り出すと床に転がるそれを再び手に取った。

 ウェルギリウスの言う通り、効果はとても絶大だ。

「こんな物を夫につけるなんて……残酷だわ」

 ベッドの上のガドリールの横に腰を下すと彼女は静かに眠る夫の顔に掛かる髪を優しく避け、その額にキスをした。

「ご免なさい……ガドリール……」

 手を取り、心を決めてその鎖で繋がれた手枷を彼の右手に嵌める。

 カチャリという冷たい音と共に不気味な唸りを上げ強力な光が発する。

 その瞬間、今まで何をしても動じなかった彼の身体が始めて大きく揺らいだ。

 そして左手にそれをつけた瞬間………ベアトリーチェは冷たい視線でふと顔を上げた。





 無数の瞳が開いている…まだ時間は来ていないはずなのに………


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