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近付く目覚め

 アーリウスが託した魔法具に最後の仕上げをする為、ウェルギリウスは部屋の机にその聖杯を置かせた。

「ほぅ…懐かしいな」

 机の上の魔道書を退()けようとした彼は雑然と置かれるそれらを見て感嘆の声を上げた。

 そこに置いてあったのは三十年前に自分がガドリールに黒魔道を教授するために書き記した物だったからだ。

「それは貴方が書いたものなの?」

 いつの間にか後ろに立っていたベアトリーチェが尋ねる。

「そうだ。ガドリールは私が言った言葉、書いた言葉を一度でも見聞きすればたちまち習得してしまったからな。魔道を伝授するには優秀な弟子だったが…師にとっては複雑だ」

 懐かしい魔道書を一冊ずつ退かし、そして一番下にあった見知らぬ書物にウェルギリウスは目を見開いた。

「それはガドリールが書いた手記よ。私にはまだ理解出来ない」

 儀式を忘れ、書物をペラペラと捲る老人の顔がみるみると険しくなって行く。

 一心不乱に読み耽る彼の姿にベアトリーチェが思わず歩み寄った。

「何かあった?」

「ウェルギリウス殿、早く儀式を……時間があまり無いような気がします」

「少し待て」

 その声にベアトリーチェとアカトリエルは言葉を止めた。

 そして数分、ざっと読んだ老人は静かにその手記を閉じると頭を抱えた。

「ウェルギリウス殿?」

「………天才では収まらんな………ここまでの知恵を付けておいても制御出来なかったか」

 独り言のように呟きながら彼はアカトリエルとベアトリーチェに向き直った。

「この城を丸ごと魔封道具に出来るかもしれんぞ。それもかなり強力な物だ」

 驚きの言葉にアカトリエルが歩み出る。

「城ごとですか?」

「その通りだ。小さな魚を得るためには細かな目の網が必要だが、大物を捕らえるには網目の大きなものでも可能だろう? それと同じだ。ただ一本の糸をよりいっそう強固にすればよい」

「何を言っているのか分からないわ」

「そうだな。ガドリールが書いた手記をもっと見たいが…」

「上の彼の書斎に残っていると思うけれど、全部じゃないわ。それに、そんな時間は無いわよ。早くその枷を仕上げて。彼が目を覚ましてしまったら貴方達だけじゃなく下の人間達も犠牲になってしまう」

「しかし、これでは確実に封じ得る保証がない!」

「駄目よ!!! 早く仕上げて逃げて!!!」

「ウェルギリウス殿」

 ベアトリーチェとアカトリエルに急かされ、老人は躊躇(ためら)いながらもガドリールの魔道書の一つを懐に忍ばせると聖杯に溜まっている赤紫の血液で短剣を浸し、魔方陣を机の上に描き始めた。


 ベアトリーチェは部屋の柱時計と老人の行う儀式を交互に見渡していた。

 計算上ではあと数分足らずで彼が目覚めてしまう。


「貴方は仲間に避難の警告を出しに行った方がいいわ」

 真剣な眼差しでベアトリーチェはアカトリエルを見つめた。

「ウェルギリウス殿を置いては行けぬ」

「間に合わない。今からエントランスまで戻って逃げるのよ。これが限界。彼らを無駄死にさせたくないのなら…お願いよ。…戻って…クラージュお兄ちゃんを殺さないで」

 アカトリエルにしがみ付きながらベアトリーチェは懇願した。

 目の前で人間が食われる姿は見たくない。

 ガドリールが嘲笑いながらクラージュを玩具のように弄び、喰らう姿は尚、見たくない。

 愛する者との生活をこれから永遠に営んでいくこの城でそんな残虐な宴は開きたくなかった。

「構わん。行けダンテ」

「しかし、父上!!!」

「私の事は気にするな! デザスポワールの司祭としての勤めを果たす事が私の運命(さだめ)だ」

言い合う二人の間に入り、ベアトリーチェもアカトリエルに鋭い視線を投げかける。

「早く行って!!」

 ベアトリーチェはアカトリエルの背を強引に部屋の外に押し出し、扉を閉めた。


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