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肖像

 長い階段をひたすら登り、幾つもの入り組んだ廊下を渡り、アカトリエルとウェルギリウスを伴いながらベアトリーチェは夫の眠る最上階を目指した。

 時折通り過ぎるテラスや廊下に延々と並ぶ窓からは、この城とは対照的な早朝の光が優しく降り注いでいる。

 窓から望む遠くのエテルニテがキラキラと輝く様を見つめながらウェルギリウスはふっと笑った。

「こんな状況でなければ、さぞ絶景を楽しめた事だろうな」

 しばらく進むと廊下の中心に一本の階段が姿を現す。

 そこを登り、彼は壁に貼られた金の額縁の大きな肖像画を見つけ、思わず立ち止まった。

 描かれていたのは男の油絵だった。

 頬のこけた白い顔に鋭い瞳、通った鼻筋……真っ黒な長髪とローブを着込んだ姿。

 無機質な表情のぞっとするような男だが、絵全体には慈しみの情が溢れていた。

「ガドリールか……」

 ウェルギリウスが知っているのは十歳までの彼だが、全てを見据え、嘲るようなその冷酷な瞳は全く変わっていない。

 そして、その容姿は老人のトラウマで在り続ける友人アーリウスの面影をしっかりと残していた。

「彼が人間の時よ。私が描いたわ。…彼の助手として身の回りの世話をこなしていれば私のする事を何も否定しない(ひと)だったから。あの頃は悲しくなる程に私には興味を示してはくれなかった」

 痛々しいほどの哀愁を浮かべた顔でベアトリーチェはウェルギリウスの隣のアカトリエルを見た。

「雰囲気が貴方に似ていない?」

「?」

「彼も貴方と同じで感情を表に出さないヒトだったから。たった一つの目的の為に自分を殺し続けていたわ」

「…………これがありのままの姿だ」

「貴方みたいなヒトは気をつけた方がいい。今まで知らなかった何かを知ってしまったら……それを得るためには平気で全てを犠牲に出来てしまうから……」

「………魔道神のようにか?………」

 ウェルギリウスの言葉に頷くと彼女は再び足を進めた。

「彼にはもっと自分を大切にしてもらいたかった………」

 長い階段を登りきった所の廊下の奥深くの突き当たりに重厚な扉が姿を現す。

 その扉の両脇の壁に備え付けられた燭台の炎が青く揺らいでいた。

「ここが私の部屋。今ではガドリールの玉座だわ。彼の部屋は、私を生き返らせるために行った忌まわしい儀式で使える状態じゃないから」

 するとベアトリーチェはゆっくりとその扉を開いた。

 広い部屋、暖炉、巨大な鏡台。

 扉と向かい合った奥、広いテラスと金縁の窓から朝日が柔らかに降り注いでいる。

 床に散らばる大量の魔道書………そして化粧台の横に置かれた透明なガラスケース。

 その中にはこの陰鬱な場には似つかわしくない美しい純白のウェディングドレスが飾られていた。

 その視線の先に気付いたベアトリーチェが頼りなく微笑む。

「私の結婚式は私の身体が死んでいる時に行われたのよ。そして、彼が新しく生まれた時でもある」

 アカトリエルとウェルギリウスは慎重に部屋の中に足を踏み入れた。

 先に部屋の中ほどに進んだベアトリーチェの指先が部屋の奥を指差している。

 そして、彼女に(いざな)われるがまま目を向けた彼らは思わず足を止めた。


 巨大な天蓋つきのベッドの上に『アレ』が居た。


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