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力不足

「彼の血?」

「そうだ。これにガドリールの血を吸わせ、奴の両腕と首に()める事が出来たのならば……」

「何が起こるの? 私はもう彼を傷つけたくないの」

「魔道神の力は強力だ。魔道は元より攻撃態勢に移ると自然とそちらに力が流れるもの…それを察知してこの枷は反発力を送り出し、その力を相殺る。染み込ませた血液と同等の者の力でな」

「彼が自分の力に屈すると思うの?」

その問いにアカトリエルが進み出て答えた。

「それが無理ならば我々に勝機は無い。女神のために戦って散ろう。それが宿命だ」

 目深に被った白いローブの下から覗く鋭い瞳が固い決意を表している。

「………あなた………」

 何か物言いたげにアカトリエルを見上げるとベアトリーチェは首を振った。

「試してみたらいいわ。それが無駄でも私は知らない」

 握られた暖かいクラージュの手をそっと離すと彼女は彼に優しく抱きついた。

「お兄ちゃんは私のために頑張ってくれてたんだっていう事は知っていたわ。私が貴方を待てなかっただけ……」

「ベアトリーチェ……」

「ご免なさい。それでももう住む世界が違うから……彼が起きる前にこの城から出て行って……」

 耳元でそう囁くとベアトリーチェはクルリとウェルギリウスとアカトリエルに向き直った。

「彼の部屋に案内するのは貴方と貴方だけ」

「待ってくれ! 僕も行かせてくれ!!!」

 いきなり前に出てきたコンデュイールにヴェントは目を見張り、彼の肩をぐっと押さえつける。

「オイ、何言ってるんだよコンデル。お前落ち着けよ…」

「ヴェント、離してくれ!! ここまで来て、ジェラールさんをあんなにした張本人に何も出来ないなんてそんな事………」

「何も出来ないって言ったってお前、あいつの部屋に行って何する気だよ」

 必死で押さえつけられる青年を一瞥(いちべつ)しながらベアトリーチェは悲しそうな顔をした。

彼の大切な人もガドリールの餌食になったのだろう……しかし……

「連れては行けないわ。彼がもし起きてしまったら貴方では何も出来ない。力不足なのよ」

 哀れみの瞳を向けながら彼女は冷たく言い切った。

「!!!!!」

「貴方達の隊の中で一番力のある人間はあの二人。それは今の私にはよく分かる。次に白いローブを着た貴方達…」

 双剣徒たちを見回し、最後にベアトリーチェはヴェントとコンデュイールに目を移す。

「次に貴方達よ。……でも、その力の差は歴然……子供と大人、だとしたらどちらを危険な死地に連れて行く? ………大抵は大人の方よね」

 彼女の言葉は限りなく明快だった。

 確かにアカトリエル、ウェルギリウスに比べると警団見習いの彼の実力は雲泥の差がある。

 彼女は子供という言葉を使ったが実際は赤子と大人との力量の差は否めない。

「犠牲者はこれ以上出したくないの………貴方達の最後の手段を彼にぶつけた所で、その効果が得られなければ彼は目を覚まし残酷な舞台が幕を開ける。私が壁になっても貴方たちでは逃げられない。でも彼と彼ならば…どちらか一人が生き残り、貴方達に失敗を告げる事が出来るかもしれない」

 漆黒のローブの老人と純白のローブの男二人を見ながら冷静に答える。

「彼の目の届かない場所にまで逃げられたのなら私はまだ彼を繋ぎ止めておく自信があるのよ。彼の聖域であるこの城から逃れられれば彼には追わせない。だからここで待っていた方がいいわ」

「僕はただ逃げて帰りたくはない!! 大体そんな保障が何処にあるんだ!!」

 コンデュイールの必死な表情を冷めた顔で見つめるとベアトリーチェは感情の無い言葉で答えた。

「彼は、まだ極限の空腹状態じゃないからよ………」

 言葉を失うコンデュイールをしばらく眺めるとウェルギリウスは「そうだな」と呟いた。

「お前達はここで待て。私とウェルギリウス殿で行って来る」

 溜まりかねたアカトリエルは彼らにそう指示を出すとベアトリーチェの後に続き、城のエントランスホールの階段の上に消えて行った。


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