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大魔法

 草草の激しい揺れが確実にこちらに近付いている。

 耳が痛くなるほどのざわめきの中に甲高い不気味な声も無数に混ざり始めていた。

「おい!! すげぇ近い気がするんだけど…何にも見えねぇ」

 オランジュを後ろに下げ、ヴェントも両手に短剣を携える。

 耳が痛いほどに響き渡る不気味な音、かなり近い。

 しかし、漆黒の闇が彼らの姿を覆い隠し何も見えない。だが、確実に体の五感が警告音を発している。


 そして…双剣徒たちが持つランプの弱い光の中に瞬時に黒い影が出現した。

「アルミナレルーシュ・フェルナルクス!!(紅蓮の業火)」

 ウェルギリウスの言葉と共に深紅の業火がいち早く無数に飛び出してきた漆黒の物を焼き尽くした。

 眩いばかりの赤い光の下にさらけ出されたのは狭い巡礼道にびっちりと埋め尽くされた小さな獣達だった。

 影のような生き物の二つの瞳が幾十も連なり、それが一斉に飛び掛って来たのだ。

「うわっ何だよこいつらっ!!!」

「ガドリールが生み出した闇の下級魔獣たちだ! 気をつけろ! 素早いぞ」

 飛び掛ってくる獣達を払いながらウェルギリウスが叫んだ。

「気をつけろったって、暗くて……うおっ!!!」

 飛び掛ってきた影を間一髪の所でかわしたが厚手のマントがいつの間にか縦に裂かれていた。

「ああ~俺の一張羅(いっちょうら)!!! テメェェ!!!」

 短剣が影を貫き黒い霧となって爆ぜる。

「やだやだやだ!! 来ないでよ!!! 来ないで来ないで来ないでよおぉぉぉ!!!!!」

 両手に持ったフライパンとお玉を手当たり次第に振り回し、以外にオランジュも奮闘していた。

 彼女の周りで調理道具の餌食になった影達がボッボッ…と霧に変わっていく。

「うわっおっかねぇ~…」

 影を切りつけながらヴェントは彼女の武器にゾッとしていた。

「ヴェント後ろ!」

 コンデュイールがヴェントの後ろに迫った影を切りつける。

「おおっ! コンデル。サンキュー。オランジュのあまりの凶悪さに硬直しちまった」

「はは…君も将来あの影達みたいにならないように気をつけなよ」

「何だそれ」

 背と背を合わせ武器を振るいながらヴェントは苦笑いを浮かべた。


 確かに素早いが、さほど強くは無い。

 しかし、影達は無限に沸いて出てきていた。

 爆ぜた霧はしばらく宙を漂うと再び魔物を形成して襲ってくる。

「ダンテ!! きりが無い!! このままでは無駄な体力の消耗だ!」

「ウェルギリウス殿、しかしどうすれば」

 次から次へと襲い来る影を手当たり次第に切りつけながらアカトリエルは後方の老人に問いかけた。

「私がやる! しばらく盾になれ!」

「あなたが?」

 不意に老人の長髪がゆらりと揺れ、その手元が微かに光り輝いていた。

 帯電するようなパリパリとした音が響き、ウェルギリウスは一歩後ろに飛びのいた。

(魔道?)

 急激に上昇したウェルギリウスのオーラに何かを悟り、アカトリエルは彼の前に陣取る。

【深淵の闇から生まれし怒りの鉄槌、光を切り裂く黒き閃光、全てを飲み込む竜の轟き。来たれ雷……】

 帯電した手を高く掲げながら呪文を唱え始めた途端、夜空に漆黒の雲が立ち込め始める。

 重い轟を上げて雲の中で幾つもの閃光が走り始めた。

「オイ、何が起こってんだよ…」

【我が名は(いかずち)の魔道主ウェルギリウス・クレイメント!(いにしえ)の契約の(もと)に命ずる!我に牙を剥きしの者に天上の矢を解き放て!!!】

 空に走った雷がたちまち巨大な魔方陣を描き出し、その中心から無数の稲妻の矢が影の魔物たちに降り注ぐ。

 天から射す何本もの稲妻の矢が巨大な柱となり大地を討ち、その場に居た者たちの視覚と聴覚が一瞬にして奪い去られる。


 鼓膜が破れるほど断続的に続く落雷の音と眩いばかりの光が夜の闇を一瞬で白く染め上げた。

「……っ……………………」


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