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真相

 そこから数分の時が経ち、やっとの思いでクラージュが崖を登り終え、ヴェントたちの元へ辿りついた。

 息を荒くする彼に双剣徒の一人が水を差し出し、一息ついた所で老人は彼らにある事を打ち明ける。

「ウェルギリウス殿、何ですか?」

「お前にも話していない事がある。こうなってしまっては、いつまでも隠し通せるものではないのでな。……今打ち明けよう」

 そう言うと彼は深く息を吐き、帯に括り付けていたあの手枷と首枷を取り出した。

「ジィさんそれ何だよ」

「唯一の勝機だ。この世で最大最高の魔封道具でな。デザスポワールの大司祭が創り上げたものだ」

「魔封道具って? ………大司祭?」

「そうだ。私の友人で好敵手…そしてお前達が恐れるあの黒魔道師、ガドリール・リュイーヌ・デュー・オグレスの父が製作した」

「父親って…あいつの親父かよ!」

「厳密に言うと父親の一人…だ」

 その言葉にオランジュが首を傾げた。

「お前達では理解に苦しむ家族構成だからな。深くは考えるな」

 オランジュが「は~い」と元気の良い返事をする。

「魔封道具って何故あなたが持っているのですか? まるで彼がこの国に来る事を知っていたようだ」

 コンデュイールの言葉にアカトリエルが目を見張った。

 言われて見ればその通りだ。

 いくら()の大司祭がウェルギリウスの友人とは言え、彼がそんな重要な魔封道具を預けたところで、封じる者がそこに居なければ何の意味も無い。

 しかもエテルニテは他国との関わりを持たない国だ。そんな所に亡命した男にそれを託すのはおかしい…。

「その通りだコンデュイール・レヴェゼ。ガドリールは幼い頃ここの教皇ザグンザキエルに保護されてやって来た。………それでは、隔絶されたエテルニテの教皇が何故デザスポワールにまで足を運んだのか…」

「教皇様は、声に導かれたとおっしゃいました」

 クラージュの言葉にウェルギリウスは頭を縦に振る。

「声は……大司祭の物だ。おそらくノイズが入り、人間離れしたものに聞こえただろう。例えば…神のような…」

「デザスポワールの大司祭が何故エテルニテを……」

 クラージュの疑問の言葉に、アカトリエルは何かを感ずき、顎に手を当てた

「そうか…この時を見越していたのだ…………死期が迫りつつある事を悟った大司祭は神を封じ、人間として生き始めた我が子を手に掛ける事も出来ず、里親を探し始めた。しかし、その神の力に子が屈する時を案じて………」

「ちょっと待った。俺ってあんまり頭良くないから分んねぇんだけど…分かるように完結に頼むよ」

 ヴェントの言葉にウェルギリウスが躊躇いながら口を開いた。

「私がここに居るからガドリールをこの国に託したのだ」

「えっと…ジィさん? 何言って………」

「ヴェント。彼は保険なんだよ。その魔道神が蘇った時の保険なんだ」

「保険?」

「その通りだ。大司祭アーリウスは息子が自ら魔神を制御する力を付ける事を望んでいた。だが、己が死んだ後ではどうする事も出来ない。黒魔道に通ずるありとあらゆる知識と力を誰が教授する? デザスポワールの司祭たちしか持ち得ない術は彼らしか伝授出来ぬ」

「伝授って………」

「私がこの道を通るのは今宵が初めてではない。三度目だ」

 一同の顔が驚愕に満ちる。

「始めはガドリールがこの国に来た日……教皇に救いを求められ、私はあの城に足を運んだ。そして、数年、あの城に住み、ガドリールに黒魔道の術を叩き込んだのだ」

 老人は話し続ける。

「己の敵は己で制御しろと何度も教え込み、私が知る全ての知識を奴に授けた。………だが、私が何年もかけて得た力と知識をアレは僅か五年で極めた!! どれ程の苦痛だったか…全てを教授し、そして私はあの城を離れ…再びこの道を戻った」

 しばらくの沈黙の中老人は拳を握り締める。

「私は奴の息子にも勝てなかった。…たった十歳の子供だぞ!!! いっその事ここで殺してしまった方がいいのではとも思ったが……」

 ウェルギリウスがアカトリエルを振り向いた。

「手放したお前と(かぶ)って…あと一歩が踏み込めなかった………」

「ウェルギリウス殿……」

「私は妻に忘却の法を掛け、その五年を無かった事にした。奴は強い…私が見てきた中でも最高の黒魔道師だ。父である大司祭以上の天才であり、黒き賢者だ。ガドリールならば魔神を制御できる知識と力を手に入れられるのではないかと期待していたが………現状はこの有様だ」

 全てを打ち明け、老人は脱力したようにその場に座り込んだ。

「分かったか? 全ての元凶は私だ。私がこの国に来なければ、私があの時に手を下していれば奴も居なかった」


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