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古(いにしえ)の巡礼道

 双剣徒たちの歩みを遅めていた問題のオランジュが解消されたために森の中の探索は異様に速く進んでいた。

「ずい分深い所まで入って来たけど…ヴェントは本当に帰り道分かってるの?」

「帰り道なんて分かんねぇよ。こんな暗闇で周りなんて見えないしな…だけど街の方向は分かるぜ? ほら見ろよ」

 ヴェントが指差したのは生い茂る木々の間から覗く一際明るい月だった。

「この季節の月の位置で大体の予想は付くんだよ」

 するとコートの内ポケットから彼は銀の懐中時計を出し、それと空の月を交互に見直した。

「この時間で月があの位置だろ? でも街中の月の位置はほんの少し違うんだよ。だから街で見る月の位置に合わせていけば、何処に居ても帰れる」

「僕は同じに見えるけど…」

「こう見ててもやっぱ何かが違うんだよな。親方は俺のその感覚は天性だって行ってたけど、詳しくは分かんねぇや。暇な時はいつも空ばっかり見てるからかもな」

「影商人は誰にでもなれる代物じゃないからな……お前達の天体洞察力は並外れている」

 隣のアカトリエルの言葉にヴェントは首を傾げた。

「知らなかったか?影商人とはそういった(たぐい)の洞察力が優れた者たちの集まりだ。持って生まれた野生の勘がずば抜けて鋭い。勘というものは鍛えてどうこう出来る物ではないからな」

「マジかよ!! 俺ってそんな能力者だったのか?」

「そう驚く事ではない。エテルニテを探し当てられた事自体がその能力の体言だ…ここは世界の果てにある伝説の国だからな」

「それじゃアンタの親父もその力の持ち主だな。ここに来たんだからよ」

「それとは違う、彼は高等な黒魔道師だ。探そうと思えば容易に検索できる。ここのように強い力が充満していなければな………」

「強い力?」

「この森には常人では捉えられぬ強い力が霧のように溢れている。恐らくあの城主の魔力だろう……それ故獣も他では見ぬ変異体が多いのだ」

 その言葉にヴェントとコンデュイールが周囲を見渡した。確かに他の森とは違いこの北の森は薄気味悪いが、そんな力が及んでいるようには見えない。

「ずいぶんと強くなったものだ」

 不意にウェルギリウスが呟いた。

「ジィさんどうした?」

 ヴェントの言葉にはっとするとウェルギリウスは「いや」と一言言うと首を横に振った。

「それよりこれを見てみろ」

 老人の手が指差した先に崩落した岸壁が立ち塞がっていた。

「すげぇ………」

 数百メートル上から岸壁がそぎ落とされるように崩れている。

 巨大な崩落石が積み重なった山はかなりの年数が経過しているらしく緑が生い茂り、巨木が根を張り巡らせ新たな森のように頭上高く聳えている。

 遠くからでは数々の切り立った山の一つにしか見えない事だろう。

「かなり大規模な崩落だったんですね」

 今までずっと黙っていたクラージュが山を見上げながら呟いた。

「おい」

 ヴェントが屈み込み彼らを呼んだ。地面に苔むした大地に隠れるようにかなり年代物の石畳が崩落した山の中に続いている。

「古代の神殿への巡礼道だ」

「足場を利用すれば登れそうですね」

「そうだな。伝承では魔城の立つ山を回り囲むように巡礼道が続いていたと書かれている。この崩落した岸壁を越えれば古代の巡礼道が姿を現すかもしれん」

「それじゃあ彼女を起こさないとね」

 アカトリエルの背では図々しくもオランジュが眠りに付いていた。

「すげぇな。こいつ寝てるぜ? アカトリエルさんの背中に(よだれ)たらしてねぇだろうな。オイ! 起きろよオランジュ! もう十分休んだろう?」

「まるでお前の娘だな」

「ウェルギリウス殿」

「私にはもうそれぐらいの孫が居てもおかしくないぞ」

「私は妻は娶りません」

「妻が無くとも子は持てる。お前の生き方に関与はしたくはないが男としての楽しみも経験しておけ」

 その言葉にアカトリエルは息をつき首を横に振った。

「何? もう着いたの?」

 背から降りたオランジュは目を擦りながら大きな欠伸を一つした。

「これから山登りだぜ。しっかりしろよ。ちょっとは疲労回復出来ただろ?」

 アカトリエルから手渡された水を飲むとオランジュはトントンと足を踏み鳴らしてみた。

「う~ん。まだちょっと痛いけど頑張る」

 再び大きな欠伸をした彼女に再びヴェントはため息をはいた。

「お前のせいでため息しか出ねぇよ」


「まずは私達が登りロープを垂らす。部下を半分残すからお前達は渡されたロープを手繰ればいい。ヴェント・エグリーズとコンデュイール・レヴェゼは一人でも大丈夫だな。そこの娘には部下のサポートを付けるが………ウェルギリウス殿とクラージュ司祭は」

「老人扱いするな。黒魔道師である以上それなりの体力は付いている。黒魔法が大きければ大きいほど身体に返る反動も強大だからな」

 その言葉に再びオランジュが食いついた。

「そうなの?! 魔法ってひょろひょろでも使えるんじゃないの?」

「それは無い。使う者には使う術を受け止めるだけの身体が必要になる。強大な魔道師で在れば在るほどそれは必要不可欠な要素だ。我が国でもまずは体作りから入った」

「じゃあここの上のお城に住む黒魔道師もそうなのかな。影マッスル?」

「そうだな。これだけの力を宿しているのだ…今は腕力だけでもここの誰よりも強かろう」

 ウェルギリウスの瞳が再び宙に泳いだ。

 魔城が近付くにつれて彼は時折こんな目をする。

 何かを秘めているような……そんな雰囲気の瞳だ。

「私もご心配には及びません。一人で行けます………彼女がただ一人で登った道なのですから……」

 クラージュの目にも強い意志が宿っていた。

「クラージュ司祭もどうしたの? 何かすごく男らしくなった感じだわ」

 オランジュの言葉にクラージュは微笑む。

「そうですね。強く在らなければなりません」

「それでは行くぞ。合図を送ったら登って来い。登りきるまでに敵の襲撃がなければよいがな………」

 そう言うとアカトリエルと双剣徒の半数はロープを手に岩肌に手を掛けた。


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