怖いもの知らず
「ヴェント!! 彼は? …何であの黒魔道師が…」
「落ち着けよコンデル。あの城の黒魔道師じゃねぇから」
「そんなっ…。だってエテルニテには黒魔道師は、あの城の主しか居ないはずだ」
くっくっくっと低い声を上げながら黒ローブの男はそのフードを取った。
「まぁ座れ。お前達の言う黒魔道師はもっと若かろう? 計算上ではダンテ…いや、アカトリエルより二・三年下だからな。まぁ出身は私と変わらぬが……」
恐れるコンデュイールとは対照的にオランジュの瞳が輝いた。
彼女は率先して黒魔道師の隣に座り込むとその顔をまじまじと見つめている。
「ジィさんは黒魔道師の最高峰だぜ? お前黒魔道師に興味持ってたもんな」
「黒魔道師のジィサンさん?!」
「ウェルギリウス・クレイメントだ」
「ウェル? ギウス?」
「クレイメントの方が呼び易かろう」
「何か想像と違うわ。私が想像してたのはもっと温和なお爺さんよ。髪も長いけど真っ白じゃないし、髭は生やさないの?」
恐怖など微塵も感じさせないほど質問を浴びせまくるオランジュはある意味勇者だ。
背も高く、年の割には体つきもしっかりしている全身黒ずくめの黒魔道師にあれ程近付く人間はまず居ない。
国柄の鋭く整った顔立ちもかなり近付き難い雰囲気を醸し出しているのだが……
「あなたも彼女もすごいですね」
クラージュがヴェントとオランジュを交互に見渡しながらそう言っていた。
「雰囲気が読めねぇっていう方がしっくり来るぜ」
「我が国の男に穏やかな安らぎは求められぬ。あの国の純血種である限り黒髪以外を求めるのも無駄だ。髪もめったに切らぬし髭も生やさぬ」
「ふぅーん。魔女も?」
「違わぬ」
オランジュ以外ウェルギリウスから少し距離をとった感じで赤い炎を囲むと、しばらくしてアカトリエルが森の中から大型の獣を引き下げて戻ってきた。
すでに血抜きが済んでいるそれに祈りを捧げると彼は肉を解体し、炎の周りに置いた。
「すげぇ本当に獲物持って来やがった。クラージュさんよあんた食えるか?」
幸いにも今日は肉を食しても許されると説く日だった。
しかし、結構グロイ……
「そうだ。ジィさんとアカトリエルさんなら分かるかな」
肉の焼けるいい香りを鼻に掠めながらヴェントは炎の向こうの二人を見つめた。
何故か知らないがオランジュがごく普通に二人の間に収まっている。
しかも白ローブの男の方が持っていた水までも催促し、いただいていた。
「………………お前確かにスゲェな」
「何が?」
「いや、何でもねぇ。気にすんなよ」
ふぅーんと呟きながら少女はいち早く焼けた肉を口に頬張った。