休息
息を付いたヴェントの後ろから続いてドシャッという音が響いた。
急いで後ろを見るとそこに居たはずのオランジュが居ない。
…が、彼女は後ろの方にうつ伏せで倒れていた。
どうやらせり出した木の根に足を取られ転んだようだ。
両手がフライパンとオタマで塞がれていたものだからもろに顔から地面に突っ伏したらしい。
「おいマジかよぉ…」
「ごめんヴェント僕が彼女をおぶってもいいけど…彼に肩を貸してあげてくれないか?」
「はあぁ? 俺が?」
「それじゃあ君が彼女をおぶるかい?」
オランジュは上半身だけを起こすと目の前の少年に潤んだ哀願の瞳を向けた。
その顔は泥で汚れ、肘は擦り剥けている。
「一人で大丈夫よ!! 一人で行けるわ!!!」
そう叫んではいるが、その目はどう見ても助けを求めている目だった。
「少々休憩するか」
後ろから低い声が聞いてきた。
「休憩なんていらないわよ!!」
「もう大分歩いた。この先には依頼箱がある…教皇が亡くなられた場所で休息を取るわけにはいくまい。それにあの場へ続く道を探し、急な斜面を登る都合もある…。城に着く前に襲撃に合うかもしれぬしな」
するとアカトリエルは片手を挙げ一つの合図を送った。
その合図と共に白ローブの男達は忙しく動き回る。
「何だ?」
「恐らく食事を摂れるのもこれが最後だ。お前達は私の所に来い」
周囲の男達を見ると四・五人のチームで皆乾いた薪を拾い、火を起こしはじめている。
「食事って…食い物なんて持って来てねぇだろ」
「それぞれが狩る」
「狩るって森の猛獣を狩るのか? あんたたち教会の……」
「我々は騎士という肩書きを持った修道士だ。教会の食事では日々の修行を耐えられぬ故に肉も自然の恩恵として常にいただいている」
「ほ~教会の奴らとは大分違うんだな」
アカトリエルはヴェントたちをウェルギリウスの元に座らせると一人肉を調達するために森の中に姿を消した。
「ここの国の司祭は脆弱だな」
黒いフードを被った男がクラージュの姿に微かな笑みを浮かべていた。
他のチームとは異なりウェルギリウスの前にはすでに赤い炎がめらめらと燃え上がっていた。
下には薪も無い。どうやら彼の魔法で出現させた物らしい。
そして彼の姿に恐れおののき、後ずさったのがコンデュイールだった。
漆黒の長いローブ、白い肌…
この姿はエテルニテが恐れるあの魔城の主と同じだ。




