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新たな仲間

 金の短い髪にマント。…腰に差した双剣徒とは違う剣。

 ヴェントは思わず声を張り上げた。

「コンデルじゃねぇか!!!!」

 咳き込み、目に涙さえ浮かべる少年が「やあ……」とばつが悪そうに手を上げる。

「ヴェント・エグリーズ。お前の知り合いか」

 アカトリエルが聞いた。

「ああ友達……か? 友達になんのかどうか分かんねぇけど、まぁそうだよ! あの北警団員の生き残りだ。何だよお前、五日ぶりじゃねぇか!!」

 げほげほと咳き込むコンデュイールの首に腕を回し金の髪をくしゃくしゃと揉み解す。

「イタタタ…ヴェントそこは縫った所だから…」

「おおっとワリィワリィ。オイッ…まだ抜糸してねぇのか? うおぉっ! 怪我した所ハゲてんぞお前!!! ヤバくね?」

 もみくちゃにされる警団の少年を眺めながらアカトリエルはため息をついた。

「森に入ったあたりからずっと二人の人間がつけてきていたが、お前の知り合いだったとはな」

「付けてって……だからあんたたちずっと後ろ気にしてたのかよ!!」

 しばらくしてヴェントは「ん?」と首を傾げた。

 先ほどアカトリエルは二人(・・)と言っていたが…


 未だに粉塵が巻き上がる中にもう一人の小柄なシルエットが突っ立っていた。

 目を凝らしてよく見ると…………

「オランジュ!!!? おま…お前何で居るんだよ!!!」

「ごめんヴェント。僕は待ってた方がいいって何度も言ったんだけど…彼女の事はちょっと止められなくて」

 コンデュイールが申し訳なさそうに小さく呟いていた。

「いやっ確かにこいつ一人で突っ走るから止めるられねぇけど……っつーかそれよりその格好おかしいだろ!!! 何をどう考えたらそうなるんだよ!!!」

 粉塵の中からずかずかと姿を現した少女に双剣徒たちも面食らう。

 いつもの愛らしい服はともかく、右手にはフライパン、左手にはオタマ…そして頭には兜…いや、鍋が被られていた。

「ヴェント・エグリーズ。分かっていると思うが、その娘はさすがに連れては行けぬぞ」

 アカトリエルの無機質な言葉にオランジュがキッと睨み付けた。

「あんた何様のつもりよ!!! こんな怪しげな集団でヴェントを森に連れ出して!!! 何するつもり?!」

 フライパンを振りかざし少女は勝手な文句を並び連ねた。

「いい大人がこんな大人数でたった一人の少年を痛ぶるなんて、あんたたちにはプライドって物が無いの? 何その腰の剣! 何も持たない一市民をそれでどうしようって言うのよ!! ヴェントを処刑するっていうんなら私が相手になってやるわよ!!! 女神の名に賭けて絶対許さないんだから!!! さぁ来なさいよ!!!」

「……オランジュ…それは、それは駄目だよ!! ほら、そのフライパン下げて…。何回も言ってるじゃないか女神の騎士たちにはそんな…よりにもよって女神の名前まで出して…。君は何も言わないでいいって言ったのに、僕がそこら辺の事情は聞くから……ね?」

 兄のように(なだ)め、コンデュイールがおろおろしながらオランジュのフライパンを片手で押しのけ、彼女の前に立ちはだかり白いローブの集団に引きつった笑みを向けた。

「うるさいコンデル!! あんたには威圧感ってものがないのよ!! こんな奴らにへこへこする必要なんてない! ヴェントを返してよ!! 返しなさいよ!!!!」


 昨日のエガリテの言葉を思い出した。

 この調子でオランジュは領主の屋敷にも怒鳴り込んでいったのだろう。

 ヴェントでさえ頭を抱えてしまう。

「頼むオランジュ…もう勘弁してくれ」

「なっ何よヴェント!! 私はアンタの為にここまで来たのよ!! ちょっと!!! そんな冷めた目で何で見つめてんの?!!」

「おいコンデル。何でこいつと知り合いになっちまったんだよ。それに大体何で俺達がここに来る事知ってるんだ?」

「僕だって知らないさ。この子はほら僕を看病してくれた親方さんの娘さんだから…君が拘束された事を知らせて何か力を貸してもらおうと思ってたんだけど。それ聞いた途端に突っ走っちゃって………」

「そうよ! 四日間ずっと教会に通いながら観察してたのよ!! 私はこう見えても影商人親方の娘よ! 監視方法ぐらい心得てるわ!!」

 怒りに任せ鼻息荒くしながら、再びアカトリエルに向かって立ち向かおうとする少女をコンデュイールとヴェントが慌てて止める。

「はは……樹海は危険だし女神の騎士達も一緒だから僕だけで行くって言っても全然これで…」

「私なりの装備もして来たわ!! さぁあんた達のボスと勝負させなさい!! そこの背の高いのがボスでしょ!!! ヴェントは何もしてないんだから!! ウェディングドレスだってブーケだって慎重に完品のまま届けたのよ!!! 私が証人よ!!」

「装備って、鍋とフライパンとオタマで何すんだよ」

 小柄な少女を必死で抑える二人の少年を眺めながら、仕方無しにアカトリエルはオランジュの前に立ちふさがった。

 少女より五十センチ以上背の高いガッチリとした体躯の男はすぐ目の前に来るとまるで生きた壁だ。

 目深に被ったフードのせいで遠くに居た時には見えなかった鋭く機械のように無感情な瞳がオランジュの威勢を一気に()ぎ取った。

「なっななな…何よ! 何なのよ!! そんな怖い顔したって…わ、私は引かないから……」

 ヴェントとコンデュイールを振りほどき少女は叫んだ。

 …………近場に生える巨木の陰で…………

「むちゃくちゃ引いてんじゃねぇか…」

 ヴェントが知らずにつっこみを入れる。

「こんな話し合いをしている暇は無いんだが。どうするつもりだ」

「あいつは多分帰らねぇ……足手まといかもしれねぇけど、連れて行った方が無難だと思うぜ」

「我々も守れぬぞ」

「あの、僕が出来るだけあの子をフォローしますけど……ヴェントを何処に連れて行くんですか」

 コンデュイールの問いにアカトリエルは木々の隙間から望む崖の中腹の巨城に目配せをした。

「コンデル後悔するぜ? 俺達の目的地は化け物の本拠地、あそこの魔城なんだよ」

「いきさつは足を進めながらヴェント・エグリーズに聞け」

 部下に進めの合図を送り、アカトリエルは彼らの最前列に歩み出る。

 クラージュはいつの間にか遥か先を頑張って歩いていた。

「ダンテ」

「ウェルギリウス殿、今朝方も言いましたがここではアカトリエルと…」

 黒ローブの黒魔道師はふっ…と鼻で笑うと

「もし、気が変わり、妻を(めと)る気になったのなら…ああいう気丈な娘の方がいい」

 と後ろの鍋を被った少女を一度見やった。

「…………………」

 その言葉に軽く息を付くと白ローブの騎士団長はフードをさらに深く被り、首を横に振った


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