表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
48/161

別れ

 いつしか時計の針は午前三時を迎えていた。

 夜風が吹きすさぶ寒い家の外で老女は息子の胸にしっかりと抱かれている。

「あんなに小さかったのに…お父さんよりも背が高くなって。母上なんて気難しい言葉だったけど嬉しかったわよ」

「お元気で…」

 抱き合っている二人のもとに漆黒のローブに身を包んだ男が同じく黒い馬を引き連れて歩んできた。

 肉厚の生地で出来た重厚な司祭服に頭に被ったフード。

 アカトリエルとは対照的な衣装のウェルギリウスは年老いた妻に照れくさそうに語りかけた。

「ジョルジュ…その、今までは色々と苦労をかけたな」

「……その黒い司祭服、やっぱり素敵ね。その姿がとっても良く似合うわ。初めて出会った時もそう…。背が高い異国の黒魔道師様」

 フフフ…と笑うとジョルジュはフードから覗く夫の白髪交じりの長い髪を愛しげに撫で付けた。

「一つ行っておかなくてはならんな」

「何かしら?」

「黒き聖母の事をお前に何度か話したが………あれは過去の事だ。今の私の真実はジョルジュ・クレイメント、お前だけだ」

 その言葉に老女の頬に乙女のような紅がさした。

 しばらく言葉を失うと彼女はたまらず夫の胸に飛び込む。 

 胸に顔を埋めながらすすり泣く妻の頭をしばらく撫でるとウェルギリウスは心を決め馬に(またが)った。

「ダンテ、行こう」


 深夜の森を駆ける重い馬の蹄の音は遠ざかり、二人の姿は暗い闇の中に姿を消した。

 二人の消えた姿をいつまでも眺めているとジョルジュはその場に泣き崩れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ