父
マントを羽織い、部屋を出た彼の前にジョルジュが立っていた。
「行くのね?」
「行って参ります。母上」
溜まらず息子の身体にしっかりと抱きつくと老女はその胸にしっかりと顔を埋めた。
封印の方法は聞いたがそれは決して楽な事ではない。魔神の血を吸わせた手枷と首枷を、魔神本人に付ける事はまさに自殺行為だ。
母と子の姿を見つめながら、ウェルギリウスはしばらく躊躇うとその席を立ち上がり驚きの言葉を口にした。
「ダンテ……私も行こう」
「!!!」
「あなた! 何をおっしゃっているのです!!」
「こう見えても一時はデザスポワールの司祭を務めた身だ。黒魔道ならばここの誰よりも提唱がある。ダンテ、お前は攻撃性の黒魔法は使えんな…? それならば一人ぐらい居た方が何かと便利だろう」
「何て愚かな……母を一人残して行くのですか? 私がそれを承諾するとでもお思いか?」
深い皺の刻まれたウェルギリウスの顔が妻を見つめた。
「私の性格はお前がよく知っているはずだ。元々国を守り、戦うために授かった力よ……先ほどのダンテの言葉ではないが、ここで使わずしていつ使う」
「ウェルギリウス殿!!! 貴方という人は…」
「黙れ!! 息子が死地に赴くという時に父である私がのうのうと身を潜めていられるか!!!」
その怒号に言葉が止んだ。
「ジョルジュ、お前の考えを聞こう」
数秒の沈黙だったがそれはとても長い時のように思われた。
皺の刻まれた両目に浮かべた涙を必死で堪える老女は不意に顔を上げ、優しい笑みを浮かべた。
「そう…ね……。そこであなたが輝けるのならば……いってらっしゃい………」
「母上」
「いいのよ。あの人の好きにさせてあげたいの……遥か過去のトラウマに悩まされ続ける彼なんて、もう見たく無いもの……」