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 老人の息が上がっていた。


「…………」

 必死で息を整えるウェルギリウスを(あわ)れみの目で見つめながらアカトリエルは首を横に振った。


 老人はそんな息子をしばらく眺めたまま手に持つ魔法施錠された宝箱を差し出しす。

「アーリウスの最後の(ふみ)と共に贈られて来たものだ。まさか、物質を転送する神魔道まで極めていたとはな。まったく…」

 ウェルギリウスは水晶の錠前に手を掲げると短い呪文を囁いた。


【リヴェラスィヨン】


 高周波の音を上げながら水晶の錠前が粉雪のように粉砕され鎖が解かれる。

 開錠された黒光りする荘厳な箱をアカトリエルに差し出すとウェルギリウスは「開けて見ろ」と促した。

 (いぶか)しげに箱を取り、蓋を開くとそこには漆黒の手械(てかせ)首枷(くびかせ)が紫のビロードに包まれて入っていた。

「これは……?」

 手に取ってみるとその枷の内側に光に反射して輝く銀の呪文が掘られている。

 アカトリエルが習ったデザスポワールの言語ではない。

 複雑な記号のように見えるそれを眺めているとウェルギリウスが口を開いた。

「我々の…デザスポワールの司祭たちにのみ受け継がれた魔道神の言葉だ。そこにはこう刻まれている【ウェル・ゲルモレンダ・ダ・ナーテボル・マ・グデナデナメン・デセダ・ノ・テナセンメディーデセル・ド・ウエルガリィディスタ・モンダ・ナンダルス・ディディデザスト・ヴォルト((われ)()と等しき者の血を与えん。(なんじ)、等しき者の血に命じ()の封印を求める)】」

「………………」

「手紙にはこう書かれてあった。『息子がそろそろ耐えられなくなる。あの魔道書を使うだろう。しかしそれも一時的なものだ。息子自ら神を封印する力を得られれば良いが、そうでなければ再び惨劇は起こる』とな」

 ウェルギリウスはズシリと重い漆黒の首枷を手に取り、それをじっと見つめていた。

「これは大司祭の骨の粉末を混ぜて作られた封鉄だ。最も高等な封印道具の一つでな…アーリウスの術が込められている」

「封印? それではこれであの魔神が…」

 老人は首を振った。

「これだけでは何の効果も無い…ここにもう一つの要素が必要になる」

「要素?」

「封印すべき者を抑え込む力。それを持った者の血液だ」

 その言葉にアカトリエルは肩を落とした。

 あの魔神をも上回る者などこの世の中をどんなに探しても見つからない。


 望みが絶たれた彼にウェルギリウスが小さな希望の言葉を投げかけた。

「人の血で無くともよいのだ。今まで生きて来た中で私が思うに…最も辛い戦いは己との戦いだろう…それならば、同等の力を秘める血液ならば………たとえば魔神本人の……」

「!!」

「死んでも尚アーリウスの力を借りるのは気が引けるな。…だが、仕方あるまい…」

 一縷の望みを得たアカトリエルは席を立ち上がるとゆっくりと父に頭を下げた。


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