剣の使途
出陣の部です。
それはまだドミネイトがエテルニテを支配し、数え切れない程の罪を犯していた時に起こった凄惨な事件。
鮮やかな緑が生い茂る新緑の春の事……
ドミネイトの下には何人もの直属兵士が居た。
兵士と呼ばれても部隊としては全く成り立っていない粗暴な男達だった。
金と地位と身の安全だけを考え、暴君の指示する事ならばどんなに汚い事でもやってのける彼らはいつしか他を力で抑制する事に喜びを覚えるようになっていた。
そして横暴な男達はある時、理不尽な理由によって公開処刑をされようとしている老夫婦を庇った教会の司祭を殺してしまった。
それは魔城取り壊し案を提示する以前に犯したドミネイト始めての大きな過ち。
………領主でさえ関与出来ない教会への冒涜………
その晩男達は大罪を犯し、得た金で盛大に酒盛りをしていた。
場所はドミネイトが管理する娼婦館を含めた街外れの酒場。
強引に引き連れてきた街娘を相手に下卑た宴が行われる最中、扉が勢いよくぶち破られ、入り口番をしていた仲間の身体が真っ赤な液体を首から撒き散らしながら店の中に転がった。
その身体には男の頭が無かった……
一人の男が首の無い仲間にそっと歩み寄ると、乱れた衣服の下から奇妙なものを見つけた。
肩にくっきりと残された女神の紋章の焼印……
ある組織の者たちが持つエンブレムの標
「そ…双剣徒だ!!」
その叫び声に男達は剣を携え店を飛び出した。
そして彼らの前に立ちはだかったのは白いローブを着た男達の集団。
彼らの中心に一際目立った背の高い男が佇んでいた。
「動くな………」
無機質な声が響く。
「無駄な苦痛は与えたくはない。それがせめてもの慈悲だ」
「やれるもんならやってみやがれ!!たかが修道士如きに俺らが屈するとでも思ったか!!!」
その言葉を合図に暴徒達は武器を振りかざしながら白い集団に牙を剥いた。
背の高い男は手で部下に『制裁』の合図を送った。
翌朝、ドミネイトの元に信じられない訃報が届いた。
司祭殺しに関与した暴徒兵たちの死亡報告。
……宴をしていた五十余名が街外れの森の中で屍となって発見されたらしい。
全てが即死、傷はただ一つ…
心臓を一突きにされるか首を落とされる、そのどちらかで他の剣による傷は無いとの事……。
そして彼らの身体の何処かには女神の焼印が必ず残されていた。
事の真相を確かめにドミネイト自ら足を運んだが、そこには彼らの遺体は無かった。
あるべき血痕でさえも…
まるで神隠しにでもあったかの現状。
その場に居たであろう女達も何も話そうとはしなかった。
エテルニテの全てが彼らの死を無かった事にしたのだ。
それを境にドミネイトは教会には関与をしなくなった。
つかみどころの無い女神の騎士達が彼の始めての脅威になった瞬間だった。