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釈放

 エテルニテには実質的に国を動かすトップが三名居る。

 (おおやけ)に政治と教会を管理する領主と教皇…

 そして影で信仰を守り続ける女神の騎士団長…

 大事な決め事をする時はその三名が決断を下す。

 そして、前教皇のザグンザキエルが死した今、この国で最も発言力を持つ者は領主エガリテと騎士団長アカトリエルの二名しか居ない。



 牢の中で特にすることも無いので眠っていたヴェントの耳にクラージュの声が響いた。

 何度か寝返りをうって、やっと身体を起こした彼は頭を掻きながら大きな欠伸をした。

「何だよ。夕飯か?」

 顔を上げた瞬間ヴェントの眠気は一気に飛び去った。

 牢越しに佇む純白のローブの男…腰には銀の剣が差され、胸には同じく銀の短剣。

 身に覚えの無い罪名を並べられ強引に自分をここに連れて来た『女神の騎士団』という奴が目の前に居る。

「……デケェ……」

 第一人称がそれだった。

 修道士とは思えないようなガッチリとした体格と対になるように、その目深なローブの影から覗く細面の顔は人形のように無表情でエテルニテの住人とはどこか異なる風貌をしている。

 改めて見て見ると自分を拘束した騎士団とは衣装がさり気なく異なり、何よりも威圧感が彼らとは格段に違う。

「ヴェントさん、アカトリエル騎士団長様ですよ」

 牢を隔てた外にクラージュが居た。隣にはあのシスターの姿もある。

「えぇ?! お前釈放になったのかよ!!」

 牢にしがみ付きクラージュに問いかける彼をアカトリエルの身体が遮った。

「何だよお前…団長って…やっとお偉いさんが登場か? 女神に仕える聖職者様が無実の国民捕まえて何するつもりだよ」

「………ヴェント=エグリーズ………一緒に来てもらおう」

「両手とか縛り上げないでいいのか? 逃げるかもしれないぜ」

「それが可能な相手ではない事は承知しているだろう……お前はそれ程愚かではないはずだ」

 そう言われヴェントはチッと舌打ちした。

 確かにその通りだ。

 このアカトリエルと呼ばれる男はそんなに甘くはないだろう。

 双剣徒の殺しは全てが制裁として片付けられてしまう…言わば彼らが持っている最も大きな権利は『殺しの許可証(ライセンス)』を常に所有しているという事だ。

 それが逃亡者相手ならば尚の事、(とが)める者は誰一人としていない。

 クラージュと隣の修道女も気が気ではないと言った感じで無言のまま首を横に振っていた。

「付いて来い」

 開け放たれた牢からしぶしぶ言葉に従い足を進めると、ヴェントは隣に並ぶ二人を眺めた。

「あいつってそんなに偉いのか?」

 前を行くアカトリエルを指差しながら問いかける姿にクラージュとマルガレーテの顔から血の気が引いた。

 そして急いで声を押し殺しながら反論する。

「あいつ…あいつって…ヴェントさん、あの方に向かってそんな口の聞き方はいけません!」

「そうですよ! 何て恐れ多いことをおっしゃるんですか!!」

「はぁ? そこまで気ぃ使う事ねぇだろうよ。どうせ同じ人間じゃん」

 アカトリエルの後姿をちらちら気にしながらクラージュは両手の平をヴェントに向けて振り、制止した。

「それでも今はここの教会の最高責任者なのですから」

「そうですよ。そもそも私達でさえめったにお会い出来るお方ではないですのに……」

 普段冷静で落ち着いている二人の聖職者が慌てふためく姿はかえって面白い。

 心の中で笑いながらヴェントはクラージュと共に騒ぐ修道女を見て首を傾げた。

「何であんたが俺達と一緒に歩いてるんだよ。何かしちまったのか?」

「えっ? あっ私ですか? あの……えーと……」

 前を歩くアカトリエルに一度目を移すと彼女も首を傾げた。

 どうやら聞きたくても聞けないらしい。

「おいあんた!!」

「ヴェントさん!!!」

 二人同時に叱咤されヴェントは「分かったよ」と呟きながら言葉を言い換えた。

「えっと……アカトリエルさんよ!!」

 精一杯譲歩したつもりで前の男を呼ぶが、隣の二人は祈りを捧げる姿で肩を落とした。

「何処に連れて行くんだよ! 俺達はともかく、こんな誠実そうなシスターまで一緒って訳分かんねぇんだけど」

 しばらくして前から言葉が返ってくる。

「証人だ。偽善と裏切りで塗り固められた司祭長を引き()り下ろす為のな……」

 何の事かは分からないが隣の二人には(おおよ)そその偽善者の事に認識があるらしい。

「で…俺達は?」

「領主の前で言いたい事を言えばいい。その後の事は……残念だが、ヴェント・エグリーズには我々と同行してもらおう。」

「ちょっと待てよ!!! あんた達と同行ってお得意の制裁じゃねぇだろうな!!!」

「それならまだいい方だ」

「なっ……」

 ヴェントが言い返すよりも早くアカトリエルは目の前の扉を開くと三人に中に入るように促した。


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