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双剣徒長

 ザグンザキエルが死んでから教会の内部は荒れていた。

 本来なら一番弟子であったヨエルが新たな教皇に即位するはずだが、彼の実質的な戴冠式(たいかんしき)は未だ執り行われていない。

 今の世情もあるが最もそれを妨害しているのは彼を良しとしない双剣(そうけん)()たちであった。

 エテルニテで教皇がこんな間にも渡って不在なのは前例が無い。


「アカトリエル様…招集には答えなくてよろしいのですか」

 腰に長剣を携えた白いローブの男が単調な口調で問うてきた。

 薄暗い部屋に注ぎ込む柔らかな日の光の中で身長二メートルを超える大男は無言のままエテルニテを見下ろしていた。


 ここは街の西に位置する双剣徒たちの本部。

 本部と言ってもエテルニテを囲む山々の一つを掘り作られた場所で、街から見ればただの岸壁にしか見えない。

 五層ほどに設計された内部の頂上に『女神の騎士団』の最高権限を持つ長の寝所があった。

 無数の本棚が壁越しに並ぶ奥の窓際にデスクがあり、その横には彼と同じぐらいの高さの女神像が祭られる祭壇が鎮座していた。

「応える必要は無い。会話の場をいくら設けようとも私の意志は変わらん」

 アカトリエルは部下に背を向けたまま無感情な声でそう答えた。

 魔物騒動がぷっつりと止んで四日、未だに街の民の恐怖は消えないが、今が好機と考えたのか昨日教会からの通達がこの場に届いた。

 内容はヨエルの教皇就任に関しての話を領主をも加えた席で行いたいというものである。

 通達者は…当のヨエル自身。


 しかし今はそんな事はどうでもいい。例え何千の時を経ても己の考えは決して変わらない…


「四日か…何故奴は姿を現わさん」

「教会では例のヴェントという影商人が召喚していたのではないかと言っております」

「…………愚かな…………あれ程の物を召喚するのにどれ程の生贄が必要だと思っている」

「私では皆目(かいもく)検討が付きません」

「召喚で呼び出されたのならばエテルニテ全てを贄に捧げねば不可能だ。……それこそ何十年もの歳月を犠牲にした修練者ではないとな………」

 しばらくして部下が低く問いかけて来た。

「例えば…貴方ならば?……………」

「……………馬鹿な事を…例え私でもそんな事は不可能だ………」

「それでは…あの少年を一体何故?」

「…………………」

「アカトリエル様?」

 数秒の沈黙の後、アカトリエルは初めて部下を振り返った。


「召集に応えよう。我らが愛すべき女神の為にそろそろ決断を下さねばなるまい」


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