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エテルニテ -終焉の魔道神と癒しの魔女-  作者: 黒埜騎士
第2章 ただ一つの癒し
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対峙

この回にはグロテスクな表現が含まれています。

 目の前の業火…


人食い化け物の脅威でさえ忘れ、人々は身を潜める建物の中から姿を現した。


燃え盛る要塞…


恐らくエテルニテ史上最大の大火災だ。


絶望のまま見つめる街人の中に十代後半のコンデュイールが居た。

頭から血を流しながら呆然と眺めている。


ここに配属されて始めての夜警、北区を全て見回り、足早に帰って来た時、警団北本部をあと数十メートルに(のぞ)んだ彼の目の前で蒼い火柱が上がった。

間を置く事無く建物の内部が青く光り、次の瞬間猛烈な爆風に彼の身体は弾かれた。

頭を打ち付け流れる血液

…自慢の金の髪も血で染まり赤く固まっている。

だが、痛みは無い。

それよりも目の前で自分が一時間前に居た要塞が燃え盛る事の方がショックは大きい。

「何で…どうしてこんな事になってるんだ…先輩は…同僚は…ジェラールさんはっ!!!!!」

 我も忘れ絶望的な仲間を助けに行こうと足を踏み出した時、肩を掴まれ自分と大差の無い年の少年に止められた。

色素の薄い銀の髪の少年…

その出で立ちから影商人の一人だと思われる。

「何やってるんだよあんた!死ぬぞ!」

「放してくれ!中に仲間が居るんだ!助けないと…」

「無理に決まってるだろう!よくみて見ろよ!火のついた馬鹿デカイ窯の中に突っ込んだらどうなるか分かんねぇのかよ!」

「それでも…」

 コンデュイールの言葉をかき消すかのように街人が次々と悲鳴を上げた。

蒼く燃え盛る炎の中を人々が指差し、蟻のように散っていく。


 灼熱の要塞の上に黒いシルエットが立っていた。


燃えることの無い漆黒のベールに身を包んだ怪物…


片手には何か大きなものを持っている。


「あれは…何だ?」

 その手に持たれた『もの』を怪物が投げ捨てた。

茫然自失となるコンデュイールの前にそれが鈍い音を立てて落ちる。


その瞬間その物体から強烈な腐臭が漂ってきた。


「うわっ…マジかよ!」


 影商人の少年が思わず鼻を塞いだ。


頑丈な鎧を着けた男の遺体…


その半身はまるで死後数週間がたっているようにドロドロに腐敗していた。

液状化した内臓が青い光りに照らされヌメヌメと光っている。

 しかし、原型を留めているもう半身の姿…


それに見覚えがある


「ジェラールさん!…そんな…ウソだ…ジェラールさんっ!!!!!うあああぁぁぁぁぁぁ!!!」

 悲痛な叫びを張り上げ腐敗した上司にすがるコンデュイールを影商人の少年は力づくで引き剥がした。

「しっかりしろよあんた!逃げるぞ!オイッ!!」

 血に塗れた頬を一度叩きその身体を抱える。

《おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!!!!!》

 化け物がおぞましく叫んでいた。

それと同時に彼らの目の前に現れる黒い影。

燃え盛る屋上に居た『あれ』がいつの間にか消えていた。

「やべぇ…」

 

目の前の影が盛り上がる。

噂に聞いていた現象と同じだ。


「オイ立てよ!!あんた警団の人間だろう!!しっかりしろ!!!」

 生きる屍のように生気を失ったコンデュイールの覚束(おぼつか)ない足をサポートしながら少年はその影から必死で逃げた。


後ろを振り向くと既に実態がそこに立っている。


赤く光る無数の瞳…


身体を返り血で真っ赤にした巨大な化け物…


「くそっ…」

 出来る限り急いでその化け物から距離を取ろうとするが、自分と同じぐらいの少年の身体を支えたままでは思うように足が運ばない。

かといって置き去りにすることも出来ない。


 不意に全身を悪寒が走り抜けた。


強烈な恐怖が駆け巡り後ろを振り向く。


「!!!!!!」


 視界が青白い身体に遮られていた。


すぐ後ろに『それ』は居た。


見上げる四メートルの化け物。


その鋭い爪が振り上げられた時、影商人の少年はコンデュイールの腰に備えてあった剣を引き抜いていた。


 ガキンッ!


目前に迫ったナイフのような爪が剣に阻まれ寸での所で止まった。

しかし凄まじい力でその差は徐々に縮まってくる。


額に爪先が浅く入り込んだ。


化け物の喉もとの口が呻きと共にガチガチと音を立てている。

「ちくしょぅ…………何で俺が…」


 死を覚悟した時彼らと化け物の間に疾風が吹いた。

山の中腹から吹き込んだ風…


《………………!!……………》

 化け物の力が極端に弱まったのを感じ取り、影商人の少年はその青白い身体を力の限り蹴り飛ばした。

必死で『それ』の下から這い出し、うな垂れるコンデュイールを抱え、力の限り走り出す。

「何だ?あいつ…」

駆けながら後ろを振り向く。

しかし、化け物は追っては来なかった。

静かに(たたず)み魔城を見上げている。

そして何かを悟ったかのように、化け物は足元の黒い影に巨躯を消した。


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