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エテルニテ -終焉の魔道神と癒しの魔女-  作者: 黒埜騎士
第2章 ただ一つの癒し
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呼び声

「ガドリール!!!!」

全ての静寂を引き裂く爆音。

深い眠りから引き戻されたベアトリーチェは部屋を見回した。

赤と蒼の炎を宿した片隅の燭台…

その光よりも強烈な閃光が窓から降り注いでいる。

「ガドリール!!!!!!」

声を張り上げ夫の名を叫ぶが返事は無い。

柱時計の針はそろそろ四時を迎えようとしている。

六時間もの間眠ってしまった。

何度も何度も名を呼ぶが彼は一向に姿を見せようとはしない。

窓から身を乗り出して下界を見下ろした。


まだ日も昇っていない暗い闇…


しかしエテルニテは昼のように明るかった。

森の獣たちがざわめく声がうるさいほど耳を(つんざ)く。


青白く染まる街…


その光の根源は樹海と街の境にある警団の巨大な要塞だった。

石造りの建物の窓から蒼い炎が噴出し、窯のようにめらめらと燃えている。

その立ち上った熱気の向こうに陽炎のように揺らぐ自分の故郷(ふるさと)


「ガドリール!!」


その色に見覚えがある。


氷のように冷たい色をした炎は自分の部屋の燭台の半分以上を灯すそれと全く違わない。

直感的に


「誰かが彼を怒らせたんだ」


と悟った。

あの青白い業火は私に拒まれて(いきどお)った時にもこの部屋の暖炉に出現した。

まるで彼の怒りを代弁するかのように…

 

どうしよう…彼を呼ばないと…私が目覚めた事を知らせないと…


「ガドリール!ジュ・ヴォワラ・エクトアラ!!!〔私の声をきいて!〕」


彼の国の言葉で喉が枯れるほど呼んでみる。


初めてガドリールを引き寄せた時の唱もこの言葉を使った。


この城に来て覚えさせられた言語…


文字の一つ一つに魔力を封じた魔導神の言葉だと言っていた。

呪文のような発音も独特で、覚えるのにとても苦労したのを覚えている。

 

どれ程呼び続けただろうか…


昨日の夜に呼び寄せた子守唄も口ずさんだが彼の姿は一向に現れない。

次第に焦りが沸き起こってきた。

時間が経つにつれて犠牲になる人々の数も増える。

 

来ない・・・


私の声が聞こえてないの?

早く呼び戻さないと…


部屋を右往左往しながらどうしていいか分からずに拳を握り締めた。


 カタン…


足に何かが当たった。


床に転がる魔杖、魔法が使えるようになったのならこんな時に使わないでどうするのか…


しかし、蝋燭に火を灯すだけでも体力を消耗してしまう私にそんな事が出来るのだろうか。


迷う女の耳に断続的に続く爆発音が聞こえてきた。


迷っているヒマはない…


ベアトリーチェは杖を(たずさ)え屋上へ駆け上がった。

魔城の最上部の重い扉を開け放ち、冷たい風に美しいドレスを揺らしながら頂上に立つ。


「ガドリール…あなたを呼ぶための力を貸して…」


両手で持った杖を前に突きたて瞳を閉じた。

彼の故郷の言葉の一つ一つが本当に魔力を持つならばその言葉自体が力を発してくれるかもしれない。


「ドゥ・マンターラ・フォー・サンミ・ジュ・マクフィモイ・ラ・ア・ブレイ・ラ・アモレスク・ガドリール・ジュ・ルプラセ・・・〔お願い私に力を貸して。私の最愛の人を呼び戻して。私の元へ戻って来て…〕」


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