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第一章:目覚め

 暗い、ただ暗い闇の中、どうして、こんなに暗いのだろう。

 その時、手にヌメリとした気持ちの悪い何かが触れる。

 それが、何か理解したおれは、昨日の記憶をかすかに思い出した。目の前が暗いのは目を閉じているからだ。

 おれは、ゆっくりと目を開けた。見慣れないどこかの一室。そこに、おれは何かの上に乗って眠っていたようだ。

「また、やっちまった」

 視線を右に左に動かす、周りには死体の山、こいつらは全員おれと同じ存在だ。人をやめ、罪深き者へとなった元人間。唯一にして最大の違いは望んでなったか望んでいなかったか、それだけだ。

  おれが、死体を見ながら呆然としていると、誰かが日常とかけ離れ殺戮の世界と貸したこの部屋に近づいてくる足音が聞こえてきた。その足音は、どこかで聞いたことのあるような音程でステップを踏んでいる。

 そして、その足音はこの部屋の扉の前で止まった。

 だが、何かガチャガチャやっていて、一向に入ってくる気配がない、そこで、おれは自分が鍵を閉めていたことを思い出した。

 仕方ないので開けてやろうと上半身に力を込めた時、とんでもない音と共に扉が開いた、というより、壊れた。

「ヤッホー、生きてるか信也!」

 扉を壊したことなど気にしていない口調で、おれ、真東信也の名前を呼ぶ少女が入ってきた。

「おう、元気そうだな、安心したよ」

「安心ね……とても、そんな風には見えないけどな」

 心配した様子など微塵も見えないほど明るい少女に向かって、おれは皮肉を込めて言う。

「何言ってんだよ、ぼくがどれだけ心配したか、心配し過ぎて十時間しか寝られなかったよ」

「……十時間もか?」

 この少女の名前は栗原玲奈、黙っていれば、小さい体型に大きな瞳、綺麗なサラサラとした黒髪と可愛らしいのだが、性格を知っている奴から見れば、可愛らしいより、生意気や憎たらしいという方が勝る。

「で? 何しに来たんだお前、それとも、ついに即断者をやめさせられて雑用の後始末屋になったのか?」

「違う! 本当にお前って生意気だよなぁ、ぼくにそんな口を聞くのはお前くらいだよ」

 まあ、玲奈が怒るのも無理はない。何せ、即断者と後始末屋では天と地ほどの差があるのだから。

「だいたい、お前、ぼくに恩があるの忘れてないだろうな?」

「はいはい、安心しろ忘れてないよ」

 そう、おれはこの玲奈という少女に一生をかけても返せないほどの恩がある。

 三年前のあの日、死にそうなおれを助けてくれたのはこいつなのだ。あいつが、去った後、玲奈は様子を見ていたのかすぐに駆けつけてくれ、今おれが所属している罪深き者達に対する唯一の組織断罪者に運んでくれたのだ。

 そして、罪深き者になってしまったおれを即断者に推薦して組織に入れてくれたのも玲奈だった。

「で、結局何しに来たんだよ?」

 おれが、そう言うと玲奈は呆れた顔をして壁に張られた血がべっとりとついてるカレンダーを指差した。

「お前のことだから、忘れていると思ったよ。今日は学校の日だよ」

「ああ、そう言えばそうだったな」

 昨日は日曜日だったので祝日でもない限り学校があるのは当然か。

「学校か……別に高校二年だし、義務教育じゃないんだ、別に行かなくてもよくないか?」

 ため息混じりにおれが言うと、玲奈はムッとした顔になる。

「お前は、すぐにそう言うこと口にするな、それに聞いた話じゃ、わざと人を避けてるって聞いたぞ、学校が面白くないのは友達を作らないからだよ」

「……別に避けていないさ、ただ、やっぱり、あいつらは普通の人でおれは―――」

 その先を言おうとしたおれの口を玲奈が塞ぐ。

「罪深き者だって言うんだろ? それは、聞き飽きた」

 言いたいことを言われたおれは言葉を失って黙ってしまった、そんなおれを見て玲奈はさらに続ける。

「そりゃあ、罪深き者ってだけで保護者や何人かの生徒は信也のこと軽蔑した目で見るけど……そんなの関係ないじゃん! ぼくみたいに気にしていない奴だって沢山いるし、それにお前だって、望んでなったわけじゃないんだって、ぶはっ」

 おれは、玲奈の口を止めるために頭をなでくり回す。

「もうその辺でいいよ、ありがとよ」

「そうか? ……そうだな! よし、学校に行こう」

 玲奈は、無理やり明るく振る舞って言った。

 そんな玲奈には悪いが、やはり、玲奈や普通の人とは違いやっぱり、おれは罪深き者だ。あの街が燃やされた日、どんな形であれ、一人生き残って再び普通ではないが平穏を手にしようとしているのだから、それを考えたら、おれは学校で友達を作って仲良く平穏に過ごすことなんてできなかった。

「ほら、早く来いよ!」

 いつの間にか外に出ていた玲奈が外からここの部屋に聞こえるようにおれを呼んでいる。

 外に出るためにドアノブに手をかけたおれは、視線を動かして、中にある罪深き者達の死体を見る。

「おれも、最後はあんた達みたいになるのかもな」

 その声は、誰にも届かず、壁に跳ね返って自分に返ってきた。

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