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*Short story*  作者: 千里
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昔ながらの遊びを研究する部。/前編

短編一作目! 駄文ですねwww(

【昔ながらの遊びを研究する部。/前編】



 寒い廊下を駆け、まだ真新しいプレートが掲げられた教室の前までやってくる。コンビニで買ってきたおでんが、白い湯気をたてている。僕が所属する「昔ながらの遊びを研究する部」略して「ムカケン」の部室前。ドアノブに手をかけると、静電気が発生して思わず手を引っ込めた。もう一度ドアノブに手を触れひねると、部室内の暖かな空気が漏れてきた。三人の先輩方は暖房の効いた部屋で大富豪をしている。

 てか、全然昔ながらの遊びじゃないという。



「革命!」


「っ! ……テメー、ふざけんじゃねぇ! クソ眼鏡!」


「はい上がりー」


「ミヤコー、次、パシリな」



 ドSな口調に定評のあるムカケン初代部長、ミヤコ先輩は机に突っ伏した。残りに残った手札を全て投げ捨てて。



「ミヤコ先輩、頼まれた焼きそばパンとおでん、買って来ました……」



 返事が無い。ただのしかばねのようだ。

 とりあえず顔を伏した彼女の隣にコンビニ袋を置く。

 僕は心配そうにミヤコ先輩を見つめていたらしい。眼鏡をかけた穏やかな顔立ちのヨシト先輩がトランプを切りながら「ミヤコなら大丈夫だよ。よっぽど負けたのが悔しかったみたいだね」とクスクス笑っていた。



「ユウタ君、おでん有難うね」



「ミヤコ、他のゲームは得意なくせに、大富豪だけは負けてばっかりなんだよね」



 ヨシト先輩はそう言って、眼鏡のレンズを拭いていた。

 ヨシト先輩は部長、他の先輩と同い年。後輩に優しい唯一無二の常識人である。



「七並べとかポーカーとかババ抜きとか、ミヤコはいっつも一位抜けだったけどな」



 とイチゴ牛乳を飲んで、サトル先輩はからから笑った。サトル先輩はミヤコ先輩と幼稚園からの付き合いがあるらしい。まさか高校まで一緒になるとは思いもしなかったと言う。



「さぁー、ミヤコ。俺のイチゴ牛乳頼むぜぇー?」



 そうサトル先輩は意地悪く笑って、空になったイチゴ牛乳のパックをゴミ箱に投げ捨てた。ゴミ箱は先輩の飲んだ牛乳パックで溢れかえっていた。



「じゃあ僕のカレーパンも宜しくね」



 現実を受け入れた様子の部長は顔を上げた。



「ユウタ君も、何かミヤコに買ってきてもらう?」



 ヨシト先輩は可愛らしいがま口財布から小銭を何枚か取り出した。不服そうなミヤコ先輩は小銭をヨシト先輩の手から奪い取った。



「じゃ、僕もお言葉に甘えて……」


「テメーは駄目だ」



 ミヤコ先輩に鋭い眼光で睨まれ、却下された。



「そうだぞ一年坊主、テメーは駄目だ」とイチゴ牛乳好きな先輩。


「テメーは駄目だ」


「そんな同じことを三回も言わなくても……」



 大切なことなので三回言いました、か。

 突然、部長は何か閃いたように表情を輝かせた。僕の顔を指差して、



「そーだ! お前にパシらせりゃいいじゃん! 俺様ってば頭良いーっ」


「ま……マジですか」



 にっこり頷いた彼女は、イチゴ牛乳代金、カレーパン代金を僕の手のひらに授けて無理やり握らせた。肩を優しく叩き、今までの不機嫌さが嘘に思えるほどの笑顔で「逝ってら!」と親指を突きたてた。部長、字が違います。



「さぁさぁ、ウルトラエキサイティンググレートスーパーレボリューションファイナルリベンジマッチを始めようぜ!」



 何そのカタカナ語の羅列。カッコつけようとした結果、何ともダサいネーミングになってしまった。

 僕は部長に背中を押された。この部活の一年は僕だけだから……パシリは仕方ないけども、さっきも寒い中おでん買ってきたんですよ……またですか。

 そこに後輩の味方、ヨシト先輩が僕を呼び止めた。



「待ったユウタ君。ミヤコの言うことなんて聞かなくていいよ。……ミヤコも、負けたんだから潔く決めようよ。さっきからユウタ君使役しすぎだよ? てか、さっきもユウタ君にパシらせたじゃないか」



 さすが先輩……! 目頭が熱くなっていくのを感じた。しかしそこにイチゴ牛乳好きな先輩が口出しをする。



「いや、坊主はパシられるために、この世に生を受けたんだ」



 嫌な定めだな、それ! カッコよく言ってるつもりでしょうが、ものっ凄くカッコ悪いです、それ。



「そうだよなぁサトル。お前もよく分かってるじゃん!」



 ミヤコ先輩はサトル先輩の背中をばしばし叩いた。痛そうな顔。部長が満面の笑みを湛えて、ゆっくりゆっくり僕に近づいてくる。鋭く冷たい彼女の瞳に映るは、恐怖に震える僕の姿。僕は蛇に睨まれた蛙のごとく動けないでいた。周りの空気をおどろおどろしく淀ませ、彼女は耳元でこう囁いた。



「早く行かねぇと、お前の【自主規制】に【自主規制】突っ込んで、お嫁にいけない体にしてやんぞ」



 すみません僕は男です。そして部長は女性です。もう一度大切なことなので言うけど、部長は女性です。



「わっ、分かりましたよっ! 今すぐ行ってきます!!」


「宜しくー。俺様のさきいかも頼むわ」



 彼女、本気でやりかねないので従っておこう。冷たいドアノブを回し、室外に出ようとした刹那。外から扉が開けられ、僕は勢いよく入ってきた不思議系先輩と正面衝突してしまった。



「……いてててて……何をする、ユウタ!」



 堅苦しい口調の、坂本龍馬に憧れている先輩、リク先輩だ。手に持ったビニール袋を見ると、彼もパシリにされていたご様子。



「よお、おつカレーライス」



 意味が分からないイチゴ牛乳先輩。



「ほれ、ミヤコ。買うてきたぞ、昔懐かしのベイゴマ!」



 そういうと、ビニール袋の中身を机上にぶちまけた。中からころころとベイゴマが転がってきた。


「どこで買ってきたんだい? ベイゴマなんて」とヨシト先輩が尋ねる。リク先輩は「ワシのツテじゃ、文句あるかのう?」とヤンキーのようにヨシト先輩に絡んでいた。リク先輩はヨシト先輩にぐいぐい顔を近づける。ヨシト先輩は「うっ……」と短く声を漏らし、顔をしかめていた。



「リク……もしかして、餃子食べてきたでしょ? 息がニンニク臭い」


「ワシの勝手ぜよ! ちぃと黙っとれ、黒縁眼鏡!」


「なっ……黒縁眼鏡って」


「お前の特徴と言えば、それだけじゃきのう」


「じゃ、じゃあリクの特徴は……餃子臭いのと、そのチョンマゲだねっ!」


「チョンマゲ……? 黒縁眼鏡め、餃子臭いとは何と言う無礼を……!」



 一触即発の状態だった。睨み合いは続く。たとえるなら龍と虎。あの優しいヨシト先輩は血管を浮かび上がらせていた。


 そこに。



「……おいテメーら、いい加減にしろ。今日の部活の時間だって限られてんだぜ」とミヤコ先輩が憤っていた。



「でもミヤコ先輩たち、最初にずっと遊んでましたよね。その時間、何か部活らしいことをしていれば良かったんじゃないですかね」



 僕が言うと、一瞬だけ空気がおかしくなった。四人の先輩方は真顔になっていた。



「……だって、……ねぇ?」


「ああ……うん」


「そうだな」


「ワシがベイゴマを買うてこなければ、今日の部活は休みじゃったし……仕方ないぜよ」



 四人は何がおかしいのかと言いたげな表情で顔を互いに見合わせていた。



「つーことで、部活やろうぜ。今から真面目に部活を」



 部長は遊びから部活へと気持ちを切り替えるように手をたたいて動きを促した。真面目な部長に思わず感動してしまう。「部活動」って感じの活動なんて、何日ぶりだろう。



「今日はベイゴマで遊……ベイゴマを研究すんぞ!」



 遊ぶ気満々かい!




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この話、去年の12月に書いたんだ←

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