川岸にて(1)
居残り組で再び騒ぎ出しているのを遠く背にしながら、二人で川岸を歩く。
お互い話し出せず、歩きながらもう夜も更けた空を見上げた。
いつもは全然そんなことしないのに、クマさんと二人でいる時は空を見ることが多い気がする。
そしてその時見た星空は脳裏に焼きついて何度でも思い出すことが出来た。
今日の夜空も例に漏れずにきれいだった。
もう二度とこんな夜空を見上げることはないかもしれないと思っていたのに、クマさんの横にいるといつだって空が美しく思えるのだ。
「どうせ慧の仕業だろうな」
急に声をかけられ、私の足は止まる。
やはり慧さんのせいだったかと、少し落胆したのを見えないようにする。
けれども、どうしてだか隠すことが上手く出来なかった。
『素直になりなさい』それはいつも笑っている慧さんが真剣に言い聞かせてくれた言葉。
そのせいで、今の私は魔法にかかっているらしい。
「合宿まで全然気付かなかった、悪い。だけど、俺なんかのどこがいいんだ? 物好きにも程があるだろ。こういうの本当慣れてないから勘弁してくれ。──を好きな奴なんて俺以外にもいるはずだぞ。……おい、どうした?」
私の瞳から止め処なく涙が溢れるのを見て、クマさんはどうすればいいか分からなさそうだった。
とりあえず座れ、と言われて河川敷にしゃがみこむ。
そのすぐ横にクマさんは座り、私の方を伺っているようだった。
困った表情のままクマさんが手のひらを頭の上に乗せた時、私の口からすっと言葉が出てきた。
「私って、好きなものを好きって言えずにいたんです。大好きな──も、否定されるのが怖くて歌えなくて。だけどカラオケで堂々と歌って、好きだと言えるクマさんが、格好良かったんです。『自分のことは自分しか知らない』って言ってしまうクマさんがどんな人なのか、もっと知りたいんです。それじゃあ、ダメですか……?」
涙目のまま私はクマさんを見上げる。
戸惑った表情のまま、クマさんは私をただ黙って見ていた。
やがて、その表情が柔らかく崩れる。