新歓祭にて(3)
「おい、お前いい加減にしろよ」
再び伊藤先輩が笑い始めるのを見て、『クマ』こと大隈先輩は呆れたと言いたそうに腕を組んだままだった。
「だって、今の二年なんか、入会した時からずっとそう思ってても口に出来なかったんだよ?」
「お前……。ほんと失礼な奴だな、どいつもこいつも」
大隈先輩はそう言って、部屋全体を見回す。
その低音の声には迫力があり、部屋中の人間を黙らせるには十分だった。……伊藤先輩という例外はあったが。
そしてこの頃には自分の犯したミスにようやくだが気付いていた。
「あの、ごめ──」
そう言いかけた時、さっきまで笑っていた伊藤先輩が急に真顔になって私の言葉を遮った。
「謝らないで、笹川ちゃんは知らなかったんだし。それに、このせいで入会しないとか言わないでね。俺、君のことすごい気に入っちゃったから、入らないならクマのみぞおちに蹴り入れなきゃいけなくなる」
「だからなんでまた俺が?」
「だってクマがそんな体型なのが悪いんでしょ、愛想悪いし。それに、今年度初笑いを提供してくれた子をそうやって威嚇する目で見ない!」
「この目は生まれつきだ、悪いか!」
呆然と立ち尽くす私に、いつものことだから気にしないでと近くにいた女性が耳打ちしてくれた。
二人の言い合っている様子に目を奪われていると、自然と笑みがこぼれる。
なんだか今すごく、楽しい。
「わ、悪かったな、急に大声出したりして」
いきなり低い声で話しかけられて驚いた。
大隈先輩は腕を組んだまま、私や伊藤先輩を見ないように顔を背けているようだった。
だが今、間違いなく大隈先輩は私に向けて謝罪の言葉を述べていた。
確かに不器用な人ではあるが、悪い人ではないのかもしれない。
「ん。よく出来ました、クマ。それで、笹川さんはもちろんうちのサークルに入るよね?」
「え、あっ、はい!」
伊藤先輩に急に聞かれたが、考えることなくそう口にしていた。
正直どんな活動をするのかよく分かっていなかったが、この二人の先輩のやり取りをこれからも見たいと思ったことは確かだった。
「我ら〝スターゲイザー〟の新たな仲間を心から歓迎する」
急に声色を変えて伊藤先輩はそう唱えた。
何事かと戸惑ったが、周囲からも「おめでとう!」という声と拍手が飛び交う。
大隈先輩も渋そうな顔だったがその手を叩いていた。