七夕コンパにて(3)
集計作業で二年生が集まっている時、慧さんが私の方に近寄ってきた。
「どう? ちゃんと約束通りにしてくれたよね?」
しぶしぶ頷くと、「いいこいいこ、よく頑張ったね」と頭を撫でられる。
それはあの時のクマさんと同じ状況なのに、全然違う撫で方だと思ってしまう。
慧さんは髪の毛を掻き乱す感じだが、クマさんは髪の毛の根元まで確実に触られているのが分かるようだった。
そんなことを思い出したり、今の慧さんの撫で方を物足りなく感じてしまったりする私は、ひょっとしたら自分で思っている以上に末期なのかもしれない。
「亜梨子ちゃんが頑張ったから、もう大丈夫」
慧さんはそう言って微笑んだが、何が大丈夫なのか全然分からずにいた。
十分ほどで集計が終わり、会長の口から次々と発表される。
OB同士のケースもあれば、一年生同士で成立した組も結構いた。
その度に歓声や冷やかしの声が湧き上がる。
逆に不成立の場合は哀れみの声と笑い声が合わさる。
今まで感じたことのないような緊張を感じながら、その場をただ黙って見ていることしか出来なかった。
「アリコちゃんが書いたのは……大きなクマのイラスト! これは多分、大隈さんに違いないと我々は判断しました! メルヘンカップル誕生か?!」
歓声やどよめきで場は満たされる。
クマさんの方を直視出来なかったが、一瞬だけ目を向けると見開いた目で私を見ていた。
その表情を見て、終わりだと思った。
クマさんは私の名前なんて書いていないに違いない。
「そして組は……成立! 大隈さんは当日参加で書いてくれた模様です、びっくり! さぁ行ってらっしゃい!」
それは思ってもいないことで、私は口を手で覆ったままクマさんの顔を見た。
クマさんも驚いた様子でいる。何かが変だと思った。
まさかと思い、慧さんの方を見る。
慧さんは赤くなった顔でにこやかに手を振っていた。
「おいっ!」とクマさんが声を上げたが、「一年引っ掛けやがって! 早く行けよ」というOBたちの声に囃し立てられる。結局、クマさんも私の横に並んだ。
「……とりあえず、行くか」
久しぶりにあの低い声で声をかけられただけで、私の足が震える。
けれど、怖いからではなかった。
その声が私に向けられているのが嬉しくって、仕方ないのだ。
「はい」
そう答えるのが精一杯で、私は黙って隣を歩く。