七夕コンパにて(1)
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七夕コンパの当日に会場である河川敷に行くと、多くの人が集まっている。
屋外でやるコンパのため、車のライトを頼りに準備をしているようだ。
恐る恐るその集団に近寄ると、「アリコちゃん、久しぶり!」「来てくれたんだ、嬉しい」と何人かの先輩が声をかけてくれた。
中には前髪を切ったことで「そっちの方がいいよ、かわいい」と言ってくれたり、新歓合宿の件を謝ってくれたりする先輩方もいる。
みんな私が思っていたよりも優しくて、内心安堵する。
だが、少し離れたところにクマさんの姿を見付けると、すぐに目をそらしてしまった。
クマさんも私の方を見たが、以前のように私に話しかけることはせずに背を向ける。
自分も目をそらしたくせに、小さな痛みを感じているのは何なのだろう。
そんなことを考えていると、乾杯のビールを私のコップに注ぎながら慧さんが小声で話しかけてきた。
「クマのところには行かないの?」
私はその名前を聞いて焦りながら、ぶんぶんと首を横に振る。
すると慧さんは私の真正面に座り込み、じっと見上げてきた。
髪を切ったのもあり、初めて慧さんと目が合う。
慧さんの目は強く、まっすぐな目をしていた。
「私に言われなければ、今日は来なかったんだよね? うちは参加しない人を咎めたりしないから、今後も来る気がなければ、クマに会えるのは今日で最後なんだよ」
それは考えてみれば当然のことなのに、慧さんの口から聞くと改めて実感が湧いた。
そうだ、クマさんと会うのはあの合宿の日で最後だったはずだったし、私が望まなければ今後も直接話すことはない人だった。
「亜梨子ちゃん。今日だけ、素直になりなさい」
慧さんは私の両腕を掴み、訴えかけるように私に告げる。
少し迷ったが、今日この機会があるのは慧さんのお陰だ。
「では乾杯しましょう」という会長の声が聞こえた時、私は慧さんの目を見ながらゆっくりと頷いた。
「ん。亜梨子ちゃん、いいこ。私は亜梨子ちゃんのこと、信じたよ」
そう言って慧さんはクマさんの隣に戻っていく。
それまでクマさんはじっと私たちの方を見ていたようで、一瞬だけ目が合った気がした。