カフェにて(3)
「それであの、彼氏がいるというのは……」
私はもう一つ肝心なことを聞きたくて恐る恐る口にすると、慧さんは「あぁ!」と声を出す。
「うん、一昨年卒業したうちのOBなんだ。クマと高校から一緒で、それで仲良くなっていつも三人でいたんだよ。仕事忙しくて今は東京にいるからサークルに顔出さないし、今の二年は知らないかも。でも去年もクマと三人で長野に観測行ったりしたな」
それでは、早合点した私が勝手に勘違いをしていたことになる。うなだれたままでいると、慧さんはまっすぐと私を見てきた。
「うちのが卒業してからも自然と二人でいたけどそうか、そんな誤解されてたのか。けれど、なんで俺……じゃなかった、私とクマとの間のことが気になったの?」
「そ、それは、隠されていたのが何だか仲間外れにされているような気がして──」
「かわいい後輩を悲しませたくて隠してたつもりじゃなかったんだけど、ごめんね。でも、気になってた理由は本当に、それだけ?」
慧さんは身を乗り出して聞いてきた。その笑みで見つめられると、全てを言ってしまいたい気になってしまう。
「……クマさんといると、落ち着くんです。けれども、急に逃げ出したくなる時もあって」
考えた末にそう口にすると、慧さんは「あいつもそういうの疎いからなぁ」と呟きながら再び笑う。
「それでそれは、好きって、こと?」
今の慧さんは少し意地悪だと思う。
けれども、ゆっくりと噛み締めるように慧さんが放ったその言葉に、私は顔を真っ赤にしながらも頷いた。
「そっか。亜梨子ちゃん、自分の力で気付けたんだね」
「知ってたんですか?! 一体いつから……?」
私は少し立ち上がりそうになりながら見上げる。
やはり慧さんは聡明で侮れない。
慧さんは軽く笑いながら、「見てれば分かるよ。気付くまで待ってたけどね」と言いながら頬杖を付いていた。
何でもお見通しだったのかと内心溜息を吐いたが、同時にあの合宿の夜にクマさんから言われた言葉が脳裏に過ぎり、私は黙って俯く。
「……でも、二年生の先輩の前で、『こんな奴、対象外にも程がある』って言われたんです」
「クマが? どうしてそんなことを?」
私は顔を上げると、その時の状況を説明した。
「あいつ本当に色恋沙汰に疎いんだな……たとえその状況でも、言っていいことと悪いことがあるでしょう。けど多分、誤解を解くことに関心が向き過ぎてひどい言葉になっちゃっただけだと思うよ。悪気はないだろうから許してあげて。それにクマ、いつも三人で行ってる旅行に亜梨子ちゃんも誘ったんでしょう?」
私がこくんと頷くと、「やっぱり」と慧さんは呟いた。
「クマは恋愛には本当に疎いけど、不器用な奴だから社交辞令なんて使えないし、誰彼構わず誘ったりする奴でもないよ。亜梨子ちゃんに来て欲しかったんだと思う」
そう聞いて、私はどきりとした。クマさんがもし本当にそう思ってくれていたら、とても嬉しい。
「ねぇ、亜梨子ちゃん。参加しにくいのは分かるんだけど、来月の七夕コンパにどうしても来て欲しいんだ」