カフェにて(2)
「クマさんから、聞いてないんですか? 酔って覚えてないとか」
「いや、クマは酒入ると饒舌にはなるけど、記憶なくしたりはしないはずだよ」
「そうですか……慧さんにはそういうこと全部言ってるかと思ってました」
長野に二人で旅行行ったりするぐらい深い仲なのだから、なんて余計なことを思ってしまったけれどそれはさすがに口にしなかった。
「いや、クマと込み入った話は全然しないから」
それは意外な言葉だった。私が見上げても、慧さんは平然としていた。それから何か気付いたような顔をする。
「クマと何か、あったんだ?」
そう聞かれたが、あの合宿の夜のことはクマさん以外誰にも言いたくなくて、しばらく口をつぐんだままでいた。
意味のない喧騒だけが耳元に音として届き、テーブルに置いてあるミルクティーが入ったコップの氷だけがただ溶けていく。
それでも、ただ待っていてくれている。そんな慧さんを見て、もう一度だけ信じてみようと思えた。
「聞きました。慧さんとクマさんが、〝できてる〟って。慧さんって、女性の方だったんですね」
慧さんはきょとんとした顔をした後、何がおかしいのかお腹を抱えて大笑いし始める。
「あーあ、俺が女ってことは今年の一年の中でも亜梨子ちゃんには絶対バレないと思ってたんだけどなー、楽しくない。で、誰から聞いたの、それ」
「……二年生の先輩方から」
あいつら余計なことを、と呟くのを見て私の疑惑は確信に変わる。
さすがに今は笑われるのが不服で、私は黙ったままだった。
だが、慧さんは何でもなさそうにいる。
「あいつら知らないもんな。いいかい、亜梨子ちゃん。俺……いや、私が女だってことは認める。でも、もう一つは間違ってる。私にはクマじゃない彼氏がいるんだよ」
そう聞いて、驚いた声がその場で響く。
慌てて自分の口を押さえたが、周囲からの視線が刺さった。
今が満席の時間帯じゃなくて良かったと心の底から思う。
「びっくりさせちゃったね、ごめんごめん。隠してた訳じゃないんだけど、実は女なんだって驚かせるのを去年から伝統にしてるんだよ。中高共に女子校で昔からこんな風貌だし、このキャラにもう慣れちゃってるからさ」