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星見る人びと  作者: 瀬戸真朝
「お前……ほんと、世話が焼ける奴だな……」
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草原にて(4)

「その中を歩くと、知っている人が誰もいないことを意識してしまって、私の全てを知る人は誰もいないって実感するんです。だから、私の存在なんてどこかに消えてしまったらすぐ忘れられてしまうのだと思うと、怖くて」


街にいると気付かないような、頼りない月明かりがその場を照らす。

風の音だけが耳に届き、返す声が聞こえてこないことで私も無言のまま星空を見上げる。

『こうしてすわっていると、まるで星の世界の声を聞いている大きな耳たぶの底にいるようです。そして、ひそやかな、けれども壮大な、ふしぎに心にしみいる音楽が聞こえてくるように思えるのです』という本の一節が頭の中でぎるような空だった。


「自分が何を考えてるとかどんな経験をしているかなんて、知ってるのは自分しかいないだろ。自分のことなんて、自分しか知らない。自分のことを本気で考えられるのだって、自分しかいないだろ。それなのにそれを『わがまま』なんて呼ぶことさえ、本当はおかしいんだよ」


いきなりそう聞こえ、驚きながらクマさんを見つめる。

その横顔を見ても何を考えているのか分からなかったが、そんな言葉が返ってくるなんて思ってもいなかった。

むしろ、大抵の人は安易な励ましを返すだけで終わるだろうと高を括っていた。


けれど、大多数が返したであろう言葉と比べ、クマさんの言葉は的を射ているとしてもあまりにも悲観的だった。

どうしてクマさんはそんなに悲しい思考を持つようになってしまったのだろうか。

そう思うと、この人の過去を私は知りたいと思えた。


「だから、知らない・分からないからこそ知りたくなるってのが、相手に惹かれてるってことだろ。色々面倒臭くても人間が恋愛に走ってしまうのもそのせいかもな」


酔いのせいか、クマさんはいつも以上に言葉数が多かった。

私はただ黙ってクマさんの言葉に頷く。


「じゃあ私、クマさんのことが知りたいです」

「……お前、今言ったこと聞いてたか? それって──」


今までのことを思い返していた私は、思った通りの言葉を口にした。

クマさんは見開いた目のまま私を見る。


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